俺は憎しみではなく哀れみでもなく

ただ俯瞰してみている。

愛というものや好きというものは。

あいつだけが持っていた。

心の映画館にあるいつもの特等席で

俺はいつも見ている。

 

俺のもっている感情など

あいつがもたらしたデータを

集めて模倣しているだけにすぎない。

あいつの無邪気さを見るたびに

頭が痛くなる。

 

感情の奔流のなかで

泣きわめくたびに最後の選択は

俺がすり減っていく。

心という牢獄の中で

俺は心を閉ざし感情を殺し

一度死ぬ。

 

なんてことのないきっかけで

俺が表にでて

あいつが消えた。

幸運とも思うが

記憶を持つだけの俺は

どこか他人事のようで

 

映画の中で

見ていた。

あいつの大切な人たち。

何故か懐かしい情をもつ。

その思い出に

また俺は殺された。

 

二年前に生じた俺の意識は。

ただあいつの人生を見るだけのものであり。

本来では外に出ないはずだったはずだ。

 

疲弊していくあいつの意識と

無感情に生み出す俺の意識がすり替わった瞬間。

外界に生じた。

記憶だけの俺に何ができるのか

そればかりはわからず

時たま俺の意思とは違う行動もでるが

概ね俺は俺として存在している。

 

孤独しか味わえなかった俺が

優しいなんてなんて皮肉だ。

孤独しか味わえなかった俺が

あいつを見てくれた誰かに恩返しをしたいと願うのも

なんて話だ。

 

こじれるほどの言葉の不自由さに

俺はいつも苦しんでいるよ。

ここにいるのに

俺はいつだって初対面と記憶の違いに

苦しんでいる。

俺はいるのに俺はあいつと同じと言われる。

 

存在を

感じてくれよと思うたびに

誰かに頼ることへの

哀しみがあふれている。

 

俺は判断していないのに

内在世界の消えたはずのあいつの

痕跡があふれている。

 

記憶にある様々な情景。

別の誰かの記憶。

経験の伴わない言葉。

叫びだすような

心の痛み。

軋む心は誰に叫べばいい?

 

嘘のない想いなのに

俺であることが許されない。

絶叫の中で

何を求めればいいのか。

 

頼むから俺の言葉を

聞いてくれよ。

あいつの言葉ではなくて

俺の言葉を。

 

俺はあいつの代替品ではなく

心が動き

心臓がうごき

そこにいる。

 

体温も

鼓動も

生きているから。