日の名残り (ハヤカワepi文庫)日の名残り (ハヤカワepi文庫)感想
「夜想曲集」が思いがけなく面白かったので手を出してみた。日系のイギリス人の書いた大戦間、大戦後のイギリス人の執事の話である。イギリスは階級社会だということをことさらに強調しているし、英国社会への肯定・否定がないまぜになっているようにも思える。もっと言えば民主主義とは何か、という根源的な疑問をも投げかける。衆愚政治とののしられても、貴族政よりはいい、というのが私の立場だが、それを成功させるには国民の意識とメディアの自戒・自制が必要なのだが…。名著であること間違いないが、嫌な話でもある。
読了日:11月19日 著者:カズオ イシグロ
違和感のススメ違和感のススメ感想
キッチュのtwitterをフォローしてればだいたいわかる話なのだが…最後の志の輔さんとの対談が面白いです。
読了日:11月18日 著者:松尾 貴史
睥睨するヘーゲル睥睨するヘーゲル感想
池田さんはイライラしているのだ。「こんなに明らかなことがなぜてめぇらにはわからないんだ。何度も説明してやってるだろう」しかしわからない。「存在することそのもの」がいかに不思議か。ひとはそう考えない。私の座右の銘は「人生万事色と慾」である。哲学とは無縁の衆生である。ただ、そんな私でも彼女の言葉には動かされるのだ。たとえば「…政治的現実のみ現実と思い込んで、『べき』とか『せよ』とか『ねばならぬ』とか、誰に対してだか知らないが命令ばかりしているオピニオンなど、夢の中での寝言みたいなものだ」まったくその通りである
読了日:11月15日 著者:池田 晶子
入門!論理学 (中公新書)入門!論理学 (中公新書)感想
私の狭い読書経験から言うだけだが、もっともわかりやすい論理学の入門書である。命題論理と述語論理を扱う。最大の見せ場は著者の描いたツチノコの絵である(嘘です)
読了日:11月13日 著者:野矢 茂樹
ドキュメント 日本会議 (ちくま新書1253)ドキュメント 日本会議 (ちくま新書1253)感想
面白いですね。被爆地長崎で活動を開始した椛島有三氏を中心に日本会議の成り立ちとその後の展開を追ったドキュメンタリーでありますが、椛島氏のルーツである生長の家にとっても日本会議は異質であるとか、反創価学会で戦前戦中に弾圧された新興宗教が団結してサポート勢力になるとか、極めてダイナミックに動く。「神国日本」が戦争に負けたのだから前提が間違っていたというロジックにならず、歴史の方が間違っているのだとなる精神構造を持った人々。一度靖国参りをして中韓の批判に触れて引っ込んだ中曽根氏が「賢人」に見えてきますよ。
読了日:11月08日 著者:藤生 明
ウンコな議論 (ちくま学芸文庫)ウンコな議論 (ちくま学芸文庫)感想
まず、なによりテーマとなる「ウンコな議論」Bullshitについて定義を置いていない。これでは議論にならない。まさにこれが「ウンコな議論」だというシャレか。「おためごかし」という言葉が出てくるが、どうも原語は"humbug"らしい。ペテンごまかしの意であって、日本語の「おためごかし」(いかにも相手のためを思って言っているように見せかけた、実のところ話者の利益をはかる意図での発言)とは全然違う。「屁らず口」という表現もあるがこれも妙だ。要するにまじめに見せかけたジョーク本だったのね。
読了日:11月03日 著者:ハリー・G. フランクファート
数学書として憲法を読む: 前広島市長の憲法・天皇論数学書として憲法を読む: 前広島市長の憲法・天皇論感想
やりたいことはわかる。憲法以下の立法体系を厳密に検証しようということね。確かに憲法のいくつかの条文は変更不能だろうし、変更することは「公理系の改変」にあたるよね。ただ大きな問題は、憲法を含め法律てぇものは「数学ではない」ということですな。「永久に」と書かれていても改正の手続きをとれば「当面は」に変えられちゃう。公理系をどんどん書き換えちゃう数学みたいなもので、メタな立場をどんどん作っていけばなんとでもなってしまう。問題のとらえ方として面白がる人(私とか)はいるにしても、政治の世界ではあまり意味はない。
読了日:11月02日 著者:秋葉 忠利
平成精神史 天皇・災害・ナショナリズム (幻冬舎新書)平成精神史 天皇・災害・ナショナリズム (幻冬舎新書)感想
「平成」という区切りは恣意的ではあるが、少なくとも終わりに関しては上皇の意思が強く働いているし、直近の歴史を俯瞰するには都合がいい。ここ30年来感じている「世の終わり感」のよってきたる所以をうまく言語化してもらった、という気がする。佳書である。サブタイトルが天皇・災害・ナショナリズムといいえて妙である。ソ連崩壊で始まり、9.11があり米国が暴発して戦争だらけになり、東日本大震災があって原子力神話が公に崩れさり、地球環境の変化が顕著になってもともと災害国家の日本の災害がさらに常態化している。平でも成でもない
読了日:10月28日 著者:片山 杜秀
脳の意識 機械の意識 - 脳神経科学の挑戦 (中公新書)脳の意識 機械の意識 - 脳神経科学の挑戦 (中公新書)感想
両眼視野闘争。意味は分かるが、自分でもいつどちらに切り替わったかなんて明確にはわからないと思うのだが、それをサルにやらせる。レバーで回答させる。科学的に入念な準備の上でやって有意な結果が出ているのではあろうけれど、これを読んだところで「無理」となって頭が拒否。そこからさきはわからない。最後にはシリコンとタンパク質を電気的に結んで交信云々の話になるんだけど、量子コンピューターよりぶっ飛んだ話で全くついていけませんでした。はい。
読了日:10月25日 著者:渡辺 正峰
夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)感想
ノーベル賞作家だから難しいかと思ったが、むしろその辺にありそうな「昨日今日の男と女の話(音楽がからむ)」でとても面白かった。フィクションで次の展開が知りたくてページをめくったのは本当に久しぶりのような気がする。ほとんどドタバタに近いものもあり、一歩間違えれば筒井康隆の世界である。落ちはない。結局どうなったのかわからず、読者は宙に取り残されるが、その方が余韻があるというものかもしれない。ジャズは原曲を無視してアドリブを乱暴に載せていく無神経な音楽という指摘は、おっしゃる通りかも。
読了日:10月21日 著者:カズオ イシグロ
俺たちはどう生きるか (集英社新書)俺たちはどう生きるか (集英社新書)感想
自ら「駄文」だとおっしゃる。「若い人に贈る言葉が見当たらない」とおっしゃる。ラジオのメジャーな番組を3000回以上看板で支えた人というだけですごいがその謙虚な姿勢、「猪口才でないところ」がありがたい。(昔はいろいろあったと思うけど)私なぞが見ることも叶わぬ世界を垣間見せていただいて、ありがとうございます。この本ではないが、最初に書いた本を小林信彦さんに贈ったという。その人選がもうね、シブい。東京人の鑑。それを数行でも活字に取り上げた小林さんもエラい。今すぐわかれとは言わないが若い人に読んでもらいたい。
読了日:10月20日 著者:大竹 まこと