トランプ氏にそれほど裏があるだろうか。言い換えれば、二重三重の各方面への配慮あるいは政略といったものがあるだろうか。
今回のシリア政府軍への攻撃にしろ、北朝鮮に対する軍事的圧力にしろ、米国内向けの宣伝効果はもちろん考えての行動だとは思うが、もしそれだけ考えての行動であれば大変危険な火遊びである。
基本的にトランプ氏はよくも悪くも中間白人層の代表なのだろう。単純に考えて行動し、現実の壁にぼこぼこあたって挫折しまくっている。それが支持率の急落につながり、今度はそれを挽回しようとして外交・軍事をいじりはじめているとしたら迷惑きわまりないことである。
「米国中間層の貧困は移民のせいだ」(そもそも失業率は低いのだが)「テロは移民のせいだ」(実はホームグロウンが多いのに)として入国制限を行い司法から反発をくらい止められてしまい、オバマケアの修正も議会の反発をくらって止められ、テレビでシリアの子供が生物兵器に苦しんでいるのをみて、脊髄反射でシリア政府軍を攻撃する決断をくだす。米軍はそれに従うしかない。(もっともこれはヒラリーでもそうしていただろうとは思うが)
ロシアのプーチンは(自分のことは棚にあげて)「シリアに対する米国の侵略だ」と反論した。プーチンはお友達じゃなかったのか?先に根回しもしていなかったのだろう。何しろ脊髄反射だ。プーチンに対しては、トランプが勝手に親近感をいだいていただけだということが明らかになった。
次は北朝鮮に軍事圧力をかけようと艦隊を北朝鮮にむける。北朝鮮は米国を敵視して核開発を国連決議に反して推進しているのだ。北朝鮮のロジックからすれば、核を持たないシリアは予告なく攻撃された、自分達はそうならないために核開発を急ぐ、と考えるだろうことは容易に想像がつく。
要するに、米国中間層の代表としてのトランプ氏は、自分が思うとおりの施策をつぎつぎ打ってきたが、それらは世界の現実を理解することなく行われた児戯に等しい(ただ、強力な軍事力と経済力を伴う)施策であって、馬鹿げているだけではなく、非常に危険だ。
現実を多少なりとも理解している(と思いたい)トランプ氏の周辺は多少のブレーキはかけていて、実際日本に対するマティス氏の扱いなどは常識的、経済的軍事的合理性に沿ったものだったが、本質的には素人であるトランプ氏が核兵器を振り回しているのと同じである。専門家に任せるのももちろん危険だが、素人に全部任せるのも当然ながら危険だ。
ここへきて、このようなトランプ政権の危険が顕在化してきたといえるだろう。もう間に合わないのだろうか。追い詰められた北朝鮮は生煮えの核を使うのではないだろうか。