この街の交差点には、おかしな噂がある。

「青信号が8回点滅した時に渡りきれなかった者は、消える」というものだ。

通常、信号の点滅回数は決まっていない。だが、この街の特定の十字路だけは、稀に規則正しく「8回」だけ点滅することがある。地元の人間は、点滅が始まった瞬間に全力で走るか、あるいは最初から渡らない。


大学生の僕は、そんな迷信を馬鹿にしていた。あの日、バイト帰りにその交差点に差し掛かるまでは。


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夜の2時。人っ子一人いない交差点。

青信号がチカ、チカと点滅を始めた。僕はふと思い出し、歩きながら数えてみた。

「1、2、3、、」

5回目を超えたあたりで、周囲の音がふっと消えた。風の音も、遠くの室外機の音も聞こえない。

「6、7、、

8回目が消えた瞬間、僕はまだ横断歩道の真ん中にいた。

「なんだ、何も起きないじゃん」

足を進めようとした。しかし、体が動かない。


正確には、足がアスファルトに吸着したかのように固定されている。焦って下を見ると、自分の影が、まるで泥のように足元にまとわりついていた。


ふと顔を上げると、向かい側の歩道に「人」が立っていた。

いつの間に現れたのか、街灯の下に佇むその男は、僕をじっと見つめている。

「す、すみません、体が動かなくて。助けてくれませんか?」

男は答えない。ただ、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

赤信号になった。車は一台も通らない。

男が横断歩道に入り、僕の目の前で止まった。至近距離で見るその顔は、驚くほど無表情で、ビー玉のような瞳をしていた。

男はおもむろに口を開いた。

「惜しかったね。あと一歩だったのに」

「え、、?」

「君、気付いてないの? 8回点滅』は、信号機がやってるんじゃないんだよ。」


男は僕の肩を、冷たい手で優しく叩いた。

「この街の信号機は、ずっと故障しててさ、点滅なんて一度もしてないんだよ」

僕は混乱した。じゃあ、僕が見たあの光は? 確かに8回、青い光が明滅したはずだ。


「ああ、あれはね」男の口角が、耳元まで裂けるように吊り上がった。

「僕たちが、君の『まぶた』を裏側から8回、叩いた合図だよ」

その言葉を聞いた瞬間、僕の視界が上下に反転した。


自分が立っていたはずの場所には、いつの間にか「僕の姿をした男」が立ち、街灯の方へと歩き出していく。

僕は地面に倒れているのではない。

僕は今、「信号機を待つ誰かの、瞳の裏側」に引きずり込まれたのだ。

次に僕が「8回」まぶたを叩けるチャンスが来るまで、この暗闇の中で、誰かの視界を共有しながら待ち続けなければならない。


ふと、あなたの視界が今、一瞬だけ暗くなりませんでしたか?

それが1回目です。

あと、7回であなたは、、


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