かえりたいかといわれても | 名無しの唄

名無しの唄

鼻歌と裏声の中間ぐらいの本気

昔の自分に戻ったみたいに、なんて言えば、大概小説なんかだと楽しげな絵が浮かぶのだろうか。
でもそれは作り話の中の話で、実際のところそれほどドラマティックに生きてはいない自分としては、必ずしもそうではないということもある。

昔の自分が嫌いだというほどのことはない。
今の自分があるのはまぎれもなくその時の自分の御蔭だとわかっている。
それにそうはいっても、やはり負の方向だって極めてドラマの少ない人生だった、と記憶している。

でもだからといって、恥ずかしくないということにはまったくならないのだ。
恥ずかしい、というと少しずれるような気がするが、面倒くさい、というとそれは全然違うと思う。
何か困ったことになってしまうような、困ったことを感じてしまうような、そんな予感がするのだ。昔の自分というものに対して。
今をそれなりに生きていて、やっぱりその時もその時なりにそれなりだった自分と比べて、それなりに成長してきた自分がいる。
昔の自分と殊更に取り出してくるということは、そのそれなりが何か揺るがされてしまうのではないかという、そんな気がする。

取り立てて特筆するべき瞬間があったわけではないから、総体としての経過に誇りにも満たない何かの自信を持っていて、そしてそれは簡単に揺れ動いてしまうものなのだ。
例えば昔の自分を良く知っている人と会うとして、その時昔の自分を期待されてしまう中で、今の自分が今のようであることを保つためには、結構な頑張りが必要になってしまうような、そんな気がする。

嫌いでもないし、憂鬱というほどでもない。
多分、機会があれば喜ぶのだろう。もちろん心の底から。
しかしながらその場にまだいない自分としては、かように小さな蟠りがあるというのもまた正直なところなのだ。