ゲームとアニメとNanashiに祝福を!

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Nanashiの気になったアニメやゲームなどを淡々と上げていくブログです。
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すずかとユウが並んで歩く。ユウは歩きながらどうにも居心地悪さを感じていた。理由は単純、周りの目が気になるのだ。
 ユウの今の姿は水着姿。上には何も着てないせいで傷だらけの上半身を人目に晒している状態だ。固い表情と相まって見た目は完全に裏の人間。生来の鋭い眼光で周りを見ると、全員目を合わせないように視線を逸らしている。
 ため息を一つ。こうなることは予想していたが、実際は結構キツいものがあった。隣に並んで歩いているすずかが心配そうな目でユウを見る。

「サクライ君、やっぱり返そうか?」
「……いや、いい」

 すずかが今自分が羽織っているユウの白いパーカーを返そうとするがユウは拒否する。せっかく貸したのに周りの目が痛いから返せ、など口が裂けても言えるはずがない。それだったら多少居心地が悪くてもそのままの方がいいとユウは思っていた。
 それに、一つだけいいこともある。
 ユウが隣にいるせいで、すずかに話しかけようとする男達が怯えているのだ。これならナンパされる心配も無い。

「ま、仕方ない」

 どうせ今だけなのだから、これぐらいなら我慢出来る。ユウはそう思うと少しだけ楽になった気がした。

☆☆☆☆☆

「買ってきたぞ」
「あ、ありがとうユウ……くん?」

 ユウがなのは達のところに戻ってきて、手に持っていたジュースが入っているビニール袋をパラソルの下に置く。
 ユウが上半身裸になっていることに気付いたなのはが目を見開いて驚いた。鍛え抜かれた肉体と傷だらけの身体。思わず言葉が途切れてしまう。
 すると、ヴィヴィオもユウに気付いたらしく、怯え……ることなく目を輝かせていた。

「ユウ兄さん、かっこいい!」
「……は?」

 予想もしなかったことを言われてユウが呆気に取られる。ヴィヴィオがユウの身体をぺたぺたと触っていた。

「ヒーローみたい!」
「ヒーロー……?」

 ヒーロー。正義の味方。ヴィヴィオはユウの鍛えられた傷だらけの肉体を見て率直な感想を言った。ユウはヒーローという言葉を何度か繰り返して呟くと、口元を軽く上げてヴィヴィオの頭を撫でた。

「ありがとな」
「えへへ……」

 頭を撫でられているヴィヴィオが嬉しそうに頬を緩ませる。そこにアリサが来てユウの身体を見て感心した。

「さすが、鍛えてるだけあるわね」
「まぁ、そういう仕事だからな」
「やっぱり男ならそれぐらい筋肉が無いといけないわ。最近の男はナヨナヨしいのばっかりだし」

 アリサが周りにいる男を見ながら言う。さすがにユウほど鍛えている男などいなかった。そして、すずかを見てアリサはにやにやと笑う。

「やるじゃないすずか」
「え? 何が?」
「そのパーカー、ユウのでしょ? いやいや、まさかすずかがそんな大胆なことするなんてねぇ?」

 アリサの言葉にすずかはボンっという音がしそうなほど顔を真っ赤に染めた。

「ち、ちがっ、違うから! こ、これはサクライ君が……」
「いいのよいいのよ、深くは聞かないから」
「聞いて! アリサちゃん聞いてぇ!!」

 すずかとアリサがそんなことを話していると、なのはがすずかを見てから少しだけ頬を膨らませる。するとユーノがなのはに気付いて首を傾げていた。

「どうしたのなのは?」
「……なんでもない!」

 なのはがプイっとそっぽを向く。そこでなのはは周りの人を見て気付いた。こちらを向いたかと思うとすぐに目を背けている人、ひそひそと内緒話をしている人、そのどれもがユウを見ていたのだ。
 なのはがユウの方を見ると、無表情でジュースを飲んでいる。その表情は、どことなく悲しそうにも見えた。
 なのはは気が付いたのだ。ユウが周りの目を気にしていることに。自分の身体を見て怯えている人達を気にしていることに。
 ユウは優しい人だから、平和な海に来ている人達を怯えさせているのに心を痛めているのだろう。なのはには分かったのだ。
 なのははおもむろにパラソルの下で座っているユウに近付く。

「どうした?」
「…………」

 そして無言でユウの隣に座る。ユウが何も言わないで隣に座ったなのはに首を傾げた。なのはが少しだけ黙っていると、突然大きめのバスタオルをユウの肩にかける。

「ん?」
「…………」

 そしてまた黙る。どことなく拗ねているようにも見えた。ユウは肩にかけられたバスタオルを触ると、なのはの気遣いを察して口角を上げる。
 でも、ありがとうとは言わなかった。代わりになのはにジュースを手渡す。
 なのははそれを黙って受け取り、プルタブを開けて一口飲む。

「ありがと」
「こちらこそ」

 言葉少なく会話する。静かに時が流れていった。
 
☆☆☆☆☆ 
 
 夕暮れ時。ユウ達は海水浴を楽しんだ後、着替えてからキャンプ場に戻っていた。ユウは頭にタオルを巻き、エプロンを着る。
 今からするのは夕食の準備。今日のメニューはキャンプらしくバーベキューだ。隣に立つすずかも気合いを入れる……かと思えばどことなく落ち込んでいた。

「どうした月村?」
「……ううん、なんでもないよ」

 すずかが落ち込んでいる理由、それはユウの隣に立つ人々を見てだ。

「ママ、頑張ろうね!」
「うん、頑張ろう!」

 ユウの隣に立つのはヴィヴィオとなのは。そう、すずかは夕食をユウと二人で作ると思っていたのだが、なのはとヴィヴィオも一緒だったことに落ち込んでいたのだ。
 せっかく二人でやろうと思っていたのに、とすずかはため息を吐く。

「ヴィヴィオは俺と一緒に肉とか野菜を串に刺す。そっちは食材を切ってくれ」

 ユウに言われた通りに包丁を片手に野菜を切り、なのはは肉を切っていた。そしてユウとヴィヴィオが二人で串に刺す。

「すずかちゃん、上手だね!」
「……うん、ありがとう」

 すずかは慣れた手つきで野菜を切る。なのはが言っている通り、すずかの包丁さばきは滑らかだった。すると、ユウがすずかを見て感嘆する。

「上手いもんだな」
「え、そ、そう?」
「あぁ、これなら任せられる」
「ふふ、ありがとう」

 すずかが褒められて嬉しそうに頬を緩ませる。するとなのはも頑張って肉に包丁を入れ、ユウの方を見た。

「私は?」
「……もう少し努力しましょう」
「ひ、ひどっ!」

 ユウが視線を逸らしながら言うと、なのははショックを受けていた。なのはの包丁さばきは、すずかと比べるとどこかぎこちなくお世辞にも上手いとは言えなかった。なのはがすずかを恨めしげに見る。

「うぅ、すずかちゃん何でそんなに上手なの?」
「えっと、慣れかな? 家でもよく作ってるし」
「私も作ってるんだけどなぁ」
「ママの料理おいしいよ?」
「ありがとうヴィヴィオ!」

 ヴィヴィオのフォローに喜ぶなのは。すずかは二人を見て微笑ましそうに笑う。

「まぁ、包丁さばきが上手いからって料理が上手、っていう訳でも無いから」
「そうだろうけど、すずかちゃんは料理上手だと思うよぉ」
「あはは……」

 すずかとなのはが食材を切りながら会話する。ふと、なのはがユウの方を見ていた。ヴィヴィオと一緒に楽しげに串に刺しているユウ。それを見てなのはがため息を吐いた。

「ねぇすずかちゃん」
「どうしたの?」
「男の人って、やっぱり料理が上手な女の人がいいのかな?」

 すずかがなのはの言葉に一瞬手を止める。だが、すぐに包丁を動かした。

「なんでそう思うの?」
「ん~、なんとなく? 世間一般の男性ってそうなのかなって思って」

 すずかがちらっとユウの方を見る。そして、自分の考えをなのはに話した。

「その人によるんじゃないかな?」
「そう?」
「私はそう思うよ。料理上手な人が好きっていう人もいるだろうし、別に料理が出来なくてもいいって思ってる人もいると思う」
「……そうかぁ」

 なのはが空を仰いだ。そして、ニコっと笑いながらすずかの方を見る。

「うん、でも料理が上手いことは悪いことじゃないよね? だったらもっと頑張ろうかな」

 なのはが「よ~し!」と気合いを入れて切る作業を続ける。すずかはそれを聞いて手を止めた。

「……料理だけじゃ振り向いてくれないよね」
「ん? すずかちゃん、何か言った?」
「え、あ、何でもないよ!」

 すずかが呟く。声が小さすぎてなのはには聞こえてなかったらしいが、すずかは慌てて誤魔化した。そしてすずかはユウを見てからなのはと同じように「よし!」と気合いを入れる。

「私も頑張る!」

 その頑張るは料理のことでは無い。もちろん料理も頑張るが、他のところでも頑張ろうというすずかの決心だった。