ゲームとアニメとNanashiに祝福を! -2ページ目

ゲームとアニメとNanashiに祝福を!

Nanashiの気になったアニメやゲームなどを淡々と上げていくブログです。
よろしくお願いいたします。('◇')ゞ

「……あっつ」

 ユウがパラソルの下で呟く。砂浜ではなのは達が持ってきたビーチボールでバレーをしている。ちなみに士郎と桃子は二人で散歩をしていた。
 ユウはバレーに参加しないでパラソルの下でぼんやりとなのは達を眺めながら考える。
 考えていたのはさっきのことだ。
 喫煙所で一服して気持ちを落ち着かせてから戻ってきたが、どうにもなのはとすずかのことを直視出来なかった。
 心臓の鼓動が速く、顔が火照ってしまう。夏風邪でも引いたか、とも思ったがいきなり症状が出てくるはずは無い。

「訳分からん……」

 ユウはガクッとうなだれた。いくら考えても答えが出てこないのだ。何故なのはとすずかを見た瞬間そうなったのだ?
 アリサや美由希を見ても、似合ってると思うだけだったのに。

 あの二人だけは特別なのか?

「はぁぁ……」

 ユウは後ろに倒れ込む。背中に砂浜の熱さが伝わってくる。赤と白のパラソルに遮られた太陽を見つめた。

「ユウ君!」

 するとなのはがユウに話しかける。少しだけ汗を滲ませ、バレーをしていたせいか軽く息が上がっているなのはが太陽を背に笑顔でユウを見下ろした。
 ボーダーのパーカーからちらりと胸元が見える。ユウを見下ろしているせいで垂れてくる髪の毛をかき上げているなのはは、いつもとは違い色気があった。
 なのはが女性なのだというのが、否が応でも思い知らされる。
 ユウは直視出来ずに視線を逸らしながら上体を起こした。

「どうした?」
「寝てるから大丈夫かなって思って。日射病?」
「いや、違う。そこまで柔じゃない」
「じゃあどうしたの?」

 ユウは返事をしようとしたが、答えられない。自分でもよく分かってないのに答えれるはずが無いのだ。それに、なのはにも関係しているかもしれないのに、本人に言えるはずが無い。

「ちょっとな……考え事をしてたんだ」
「考え事?」
「あぁ」
「それって、どんな?」
「どんな……そうだな。自分が自分で無いような、自分が分からなくなるような……なんだろうな、俺もよく分からない」

 ユウは話しているうちに自分でも何を言いたいのか分からなくなってしまっていた。自分の気持ちが、感情が分からなくなって整理出来ていないのだ。すると、なのははユウの隣に座った。

「うん、それ分かる気がする」
「え?」
「私もね、最近自分がよく分からないの。もやもやするというか、ぽかぽかするというか……」

 なのはも自分と同じようなことを悩んでいたことに驚くユウ。なのはは擬音語で話していたが、正直ユウもそう感じてはいた。
 言葉にするのが難しくて複雑、だが反対にもっと単純なような気がする。理性というより本能、フィーリングのようなものだ。

「俺もそんな感じだ」
「ユウ君も?」
「あぁ」

 ユウが同意する。なのはもユウが同じだったことに驚いていた。
 たまにぽかぽかして、たまにもやもやして、たまにずきずきして、たまにどきどきして……言葉にすると幼稚で子供っぽく、安直な気がするが実際表現の仕方が見当たらないのだ。
 
 そして、今の気持ちは……。

「今はぽかぽかかも」
「今はぽかぽかだな」

 ユウとなのはが同時に同じことを口にする。すると二人はびっくりして目を見合わせた。
 ユウはなのはの柔らかな優しい目を、なのははユウの鋭いけど本当は優しい目を見つめる。
 一瞬、時が止まった。そして二人は恥ずかしくなって視線を逸らす。

「き、気が合うね?」
「そ、そうだな」

 そこで二人の会話が途切れた。波の音が静かに二人を包む。
 心臓が高鳴っている。どきどき、している。

「なんか、変なの」
「変だな」

 二人が小さく笑い合う。同じことで悩み、同じことを口にし、同じように目を合わせる。ユウとなのはは似ているのだ。類は友を呼ぶ、と言った感じだろう。

「前から思ってたんだけど、私とユウ君って似てるよね?」
「……そうか?」

 ユウが首を傾げる。ユウはあまりそうは思っていなかった。なのはは明るく社交的。それに比べてユウはぶっきらぼうでほとんど表情が変わらない。

「外見的なことじゃ無いよ? なんというか、中身が似ているっていうのかな?」
「中身?」
「うん、自覚は無いんだけど私って結構無茶するんだって」
「あぁ、たしかに」
「努力家で真っ直ぐ、自分が思ったことは曲げずに自分の道を歩いている、って言われたこともあるよ」
「俺もそう思う」
「あはは、ありがと~」

 なのはが照れくさそうに笑う。なのはが話した内容は、ユウがなのはに対して思っていることと同じだった。
 他の誰もが無理だと言うことを全力全開でやり通し、自分が傷つくことを恐れない。勇敢と無謀さが紙一重とも言えるが、それでも高町なのはという人間は貫き通すのだ。

 それが正しいと思うから。

「それってね、ユウ君も同じな気がするの」
「俺も?」
「努力家だし真っ直ぐだし、自分がこうだと思ったことは曲げずにやり通す。頑固、とも言えるね」
「悪かったな頑固で」
「あはは、ごめんね。でも私もそうだから。よく頑固だって言われるし」

 かたくなで中々自分の態度や考えを改めない、それが頑固だ。たしかにユウは頑固と言える。それは自覚していた。
 だが、別に悪いことでは無い。裏を返せば、他人に左右されない芯の強い、一途な人という意味でもある。

「だから、私とユウ君って似てる気がする」
「……まぁ、そういう風に言われればそうかもしれないな」
「ね? だから、同じようなことで悩んでいるっていうのも似てるからなのかもね」
「そう、だな」

 言い得て妙だ、とユウは思う。似ているからこそ、似たような悩みを持つ。なのはが言いたいのは、二人で悩みを解決しようということだろう。
 悩みを共有し、二人で考えて答えを出そうという意味で「私と似てる」という話をしたのだ。

 どうやら知らぬ間に気を使わせてしまったらしい、とユウは苦笑した。

「ありがとな」
「ん? 何が?」
「いや、別に。答えが出たら話すし、お前も手伝ってくれ」
「……うん、分かった」

 なのはが素知らぬ顔だったが、どこか嬉しそうだった。口元を緩ませて笑うなのは。ユウはその笑顔を見て少しだけ気持ちがすっきりした。
 そして、おもむろにユウが立ち上がる。グッと背筋を伸ばして軽く息を吐いた。

「さて、ちょっと飲み物買ってくる。何がいい?」
「じゃあオレンジジュース!」
「くくっ、分かった」

 なんとも子供っぽい飲み物を頼むなとユウはおかしくて笑う。なのはに背を向けて後ろ手で軽く手を振ると、ユウは自販機に向かって行った。

☆☆☆☆☆
 
「オレンジジュースと……あいつらの分も買っておくか」

 ユウが自販機の前で飲み物を選ぶ。なのは達六人分と自分のジュースを買ったら合計七本。さすがに持つのが大変だと思うが、ユウはそれを見越してビニール袋を持ってきていた。
 買い終わったユウはビニール袋を片手に元の場所に戻る。すると、三人の男に囲まれた一人の女性を見つけた。
 男達は皆それぞれ金髪だったり茶髪だったりと髪を染め、太陽の下で浅黒く焼けた肌をしている。所謂肉食男子だろう。
 どうやらナンパをしているらしい。こういうのはどこの世界でも同じなのだなとユウは呆れてため息を吐く。普通ならほっとくのだが、ユウは男達に近付いていた。ユウはこういうのはほっとけないのだ。人柄、というべきだろうか。
 それに、どうやら男達は強引にナンパしているようで女性の腕を掴んでいる。

「は、離して下さい!」
「いいじゃん、ちょっとぐらい。少しお話しようってだけなんだしさ」

 ユウは女性の腕を掴んでいる金髪の男の肩をポンポンと叩く。すると金髪の男は振り向いた後、ユウを見て舌打ちをした。

「なんだお前?」
「さ、サクライ君?」

 ユウは今になって手を掴まれている女性がすずかだったことに気付いた。

「あぁ、月村だったのか。どうした?」
「ちょ、ちょっとね」
「なんだよ知り合いか?」
「お兄さん、今俺たちこの子とお話してるからちょっとどっか行ってくれない?」

 ユウは男達の話に聞く耳を持たず、呆れながらすずかと話す。

「何やってんだこんなところで」
「の、飲み物を買いに行こうかと思って」
「それなら俺が買ってきた。オレンジとりんご、スポーツドリンクがあるがどれがいい?」
「ちょっとお兄さん? 聞いてんの?」

 一人の男がユウの肩を掴んで自分の方に無理矢理向けさせようとする。だが、どう力を入れてもユウを振り向かせることが出来ない。そのことに男は驚いた。
 掴んだ肩は固く、すぐに鍛えられているというのが分かった。痩せ型で筋肉など無さそうに見えていたのだが、それが間違いだったということに気付く。

「そんな格好してるから変なのに絡まれるんだ」
「し、仕方ないと思うんだけど」
「せめて上に何か羽織っておけ」

 そしてユウは肩を掴んでいる男の手に自分の手を乗せる。そして、軽く掴んだ。
 男は咄嗟に手を離して距離を置く。身体が無意識に手を離させた。このまま掴んでいたらやばい、と本能が警告したからだ。
 そしてユウは自分の着ていた白いパーカーを脱いですずかに羽織らせる。周りの男達が息を飲んだ。

「ほら」
「あ、ありがとう……」

 鍛え抜かれた無駄の無い筋肉。腹筋は言うまでもなく六つに分かれていて、その一つ一つが石のように固そうだ。ユウは痩せているのでは無い、無駄な筋肉をそぎ落とし、必要な筋肉だけを鍛えているのだ。
 そして、その鍛え抜かれた肉体にはあらゆるところに傷がある。腕や胸、腹、背中、その全てに切り傷があり、一番注目してしまうのは腹にある一つの銃痕のような傷だ。
 男達は悟る。自分達は敵にしてはいけない相手に喧嘩を売ってしまったのだと。

「そういえば、お前ら」
「は、はい!!」

 男達が口を揃えてユウに返事をする。ユウの鋭い目つきが男達に突き刺さる。

「ナンパをするのはいいが、強引なのはよくないぞ?」

 表情は硬く、目つきはナイフのように鋭い切れ目。鍛え抜かれた肉体と傷を見て男達は、目の前の男は堅気じゃないと判断した。
 思いつくのはヤが付く人、軍人、殺し屋……男達はピシっと気をつけし、綺麗に揃って頭を下げた。

「す、すんませんでしたぁ!!」
「え? あ、あぁ。いや、別にそこまでしなくても……」
「だ、だから命だけは……命だけは!!」
「は? 命?」
「後生ですから命だけは取らないで下さい!」
「……いや、取らないから」

 ユウが突然人が変わった三人に戸惑う。男達は自分達に何もしないと分かると最後に敬礼してから「助かった!」「死ぬかと思った!」と話しながら慌てて逃げていった。
 早すぎる展開にユウは一人取り残される。

「……何なんだ?」
「あ、あははは……」

 すずかは乾いた笑い声を上げる。すずかは分かっていた。あの男達がユウを見てビビっていたことに。でもそれをユウには言わなかった。これも一つの優しさだろう。

「と、とりあえずありがとうサクライ君」
「……これに懲りたら海に来る時は何か羽織っとけ」
「うん、そうする。あ、これ返すね」

 すずかが羽織っているユウの白いパーカーを脱ごうとしたが、ユウは何も言わずにそれを止める。

「いやいい。もしまたあんな奴らが来た時の為に着てろ」
「え、でもそれだとサクライ君が……」
「俺は大丈夫だ」

 ユウは受け取ろうとせず、そのまま歩き出す。すずかはユウの背中を見つめた。背中には細かい治りかけの傷跡がある。これはあの時、自分を助けてくれた時の傷だろう。
 すずかはその傷を見ながら羽織っているパーカーをギュッと掴んだ。
 どきどきと鼓動が速い。恥ずかしそうに頬を赤く染める。

 そして、どうしようもなく嬉しかった。

「……ふふ」

 そして小さく嬉しそうに笑う。離れていくユウの背中に追いつく為にすずかは走り出した。心にぽかぽかとして、それでいてどきどきする気持ちを抱えながら。