吉永さんは自分がいなくなった後、林さんがどうなるのか自分の目で確かめたかった。
だから、電話が繋がるようにブロックはしなかった。
オンナとお泊まりデートの日を見計らって引っ越しをした。
翌日、怒りの電話が来た。
「何を考えてるんだ!俺はどうすればいいんだ!人を馬鹿にするのも大概にしろ!」
それはそれは、凄い剣幕だったらしい。
「私のことは?私のこと、馬鹿にしてるよね?」
すると悪びれる様子もなくこう言った。
「もういい歳なんだから現実見たら?
君の消費期限はとっくに切れてるんだよ。
仕事があって、家のこともせっせとさせてもらえて、俺みたいなナイスガイと暮らせて、誰もが羨む環境にいるんだから。
それだけで充分幸せだと思わなきゃ。
だいたいわがままが過ぎるんだよ。
昔の君ならともかく、今後結婚するなら若くて可愛い子がいいに決まってるだろ!」
なるほど。
そっか。
分かったよ。
‥‥こんな酷いことを言われても、まだブロックしなかった。
やがて、林さんは降参してきた。
順番にオンナの家を転々としたけど、どれも長続きしなかった。
人の家に厄介になっといて、やれ部屋が汚い、ご飯が不味い、アイロンかけろと言いたい放題。
すぐに追い出された。
「俺が悪かった、帰って来て欲しい。」
‥‥いや、マンスリーマンションでそんなこと言われても。
「もう東京で仕事を始めてるし、今更大阪に未練はないの。
それに、新しいパートナーもいるから。
消費期限切れの年寄りがわがまま言ってごめん。
もう電話して来ないでね。」
ここで初めてブロック。
‥‥さすが吉永さんだ。
林さん。
逃した魚はとても大きかったよ。