『伊右衛門』。それは2004年に販売を開始し「お~いお茶」「生茶」「綾鷹」と並ぶペットボトル緑茶四大シェアの一つであり、巨匠:久石譲が発売当初から現在に至るまでほとんどのCMの音楽担当をした(途中他者によるCMも有り)名ブランド緑茶である。
またその初代CM(2004年~2012年)では、伊右衛門(本木雅弘)とその妻(宮沢りえ)が、結婚し、はじめこそすれ違う様子も見せる二人が伊右衛門のお茶に懸ける情熱を理解し、妻の姉たちや伊右衛門の師匠にも認められ、やがて愛を育み子が生まれ、弟子ができるという二人の人生を紡いだ物語となっており、そのCMのバリエーションは数十種類、そのBGMである名曲「Oriental Wind」も細かなバリエーションがありその数・十種類以上というサントリーと久石譲の熱い情熱が伝わる名CMである。
過去にはサントリー公式ページにそのCMが閲覧できた時代もあったが現在ではそのページも削除され、youtubeなどの動画に点在するものが唯一当時のCMを見る手段になっている状態である。
これはそんな20年前のCMを今更ながら全てリスト化し詳細を明らかにしようとした二人のヒサイシスト(久石譲ファン)の物語である。(むーん視点←重要)
《オープニングテーマ曲》(デーン、デン、デ、デンデンデン、デーン、デン、デ、デンデンデン、デーン、デン、デ、デンデンデン…)風の中のすばる~砂の中の銀河~みんな何処へ行った~見送られることもなく~♪(以下略)
それは、2025年の新年を迎えたばかりの1/2のことだった。
暇を持て余していたむーんは"響きはじめの部屋” (莫大な情報量を誇る久石譲ファンサイト。"ふらいすとーん"さんが運営)を見ながら思った。
「12月中にCMも粗方検索して見つけたし、後は伊右衛門シリーズよね…ふらいすとーんさんのとこにも2012年以降は詳しく記載があるけどそれ以前のものは余り詳細がないし…いくつあるのかな?どれだけバリエーションがあるのかな?…暇だし、ちょっと検索してみよかな?」
むーんはPCに向かい検索を始めた。始めるとその莫大な量に圧倒された。次々と再生リストに保存していくがなかなか終わらなかった。気がつけば日が暮れていた。
その日のむーんの”X”へのポストにはこう記されていた。
「正月早々、無謀にも何故か「伊右衛門」のCM(勿論久石譲バージョン)がYouTubeに何種類転がってるか調べたくなり、一日中検索検索検索…流石に疲れました…ばたんきゅ〜」
これが、ヒサイシスト二人の伊右衛門探求の道への第一歩である。
次の日、”X”に目を通したむーんは昨夜の投稿の返信を見た。ふらいすとーんさんのものであった。
「次の報告が待たれるところです。いやなかなか大変、ほんと全部で何種類ぐらいあったんですかねー、諦めた過去があります」
つ…次の報告?大御所ふらいすとーんさんからのプレッシャーがむーんに襲いかかった。現時点での結果を返信するとふらいすとーんさんからまた返信があった。
「大変すぎるから重圧なんて軽くスルーしてください」
ふらいすとーんさんは心優しき配慮のできる紳士である。
そんな気遣いに勇気をもらい、むーんはリスト化に着手した。
CMのバリエーション名でもある「○○篇」の記載と、大まかな音楽バリエーションをリスト化した。
1/4にはCMバリエーション53種、音楽バリエーション10種弱を確認しリスト化を終えたむーんは、その満足心から普段親しくさせてもらっている界隈仲間にリストを一方的に公開した。もちろんふらいすとーんさんにもである。日付も入っていない簡易的なリストだった。
「Oriental Windの初出ってストリングスメロディーだったんですね。なんかピアノの印象がすごく強いので上書きされちゃってました。」
「合唱版は初めて見た気がします。いつごろ放映されてたんだろ。」
仲間から感想が寄せられ、満足するむーん。その影ではある男の心に火を付けていた事にむーんはまだ気付いていなかった。
数日経ったある日(1/9)、”X”にある投稿がされた。
「伊右衛門のことで頭がいっぱい、ちょっと調べもの中」
ふらいすとーんさんのポストだった。そう、むーんのリスト公開は大御所ふらいすとーんさんの心に火を付けていたのである。
こうしては居られない。自分が始めた以上、私も探求を続けなければ!とむーんは思った。
幸い、役者名からCMの出演歴を見られるオリコンのサイトを見つけたむーんは日付、CM秒数、共演者などを調べ上げリストを強化していった。
そして、ある程度リストが完成したその日、”X”にはふらいすとーんさんのこんな投稿があった。
「久石譲 『サントリー 伊右衛門 CM音楽』O.A.リスト *Unreleased まとめたよ!New!」
二人は同日にリストをまとめていた。そして”響きはじめの部屋”には正に正確無比なリストがそこにはあった。
「さすが師匠や…完璧どすえ!」
そうエセ京都弁で呟きつつむーんもリストを前回メンバーに公開した。余計にも”響きはじめの部屋”との誤差のチェックも入れた。当然ながらその誤差にふらいすとーんさんから質問が飛ぶ。それに回答する。その応酬がDM上で繰り広げられた。他のメンバーは置いてけぼりであった。
次の日からふらいすとーんさんと2人でDMでのやりとりが開始された。新たな譲報(「譲報」…久石界隈での久石譲情報の事。他にも「譲況」「愛譲」などの使い方がある)をお互いに共有することになった。「チーム伊右衛門」の誕生の瞬間であった。
莫大な情報量を抱える”響きはじめの部屋”を運営し、圧倒的な音楽センスと解像度の高い耳を持つふらいすとーんさんに音楽のバリエーションの解析と譲報整理を託し、平凡な耳の持ち主のむーんは別角度で譲報を精査した。
それは画像であった。画像には「新発売」や「始めました」のセリフや文字がヒントとしてちりばめられており、また何より重要だったのはパッケージの変化である。これを整理することによって年代を特定しようと試みた。
お互いに新しい動画発見も続き、”響きはじめの部屋”の更新も毎日行われ、解析は順調に進んでいるものと見えた。気分の良いむーんは"X"にポストした。
「今年に入って今日まで伊右衛門CMの見すぎで、動画を見聞きしただけで「○○篇」と大体言えるようになってしまった…さしずめ、『イエモンマスター』ってとこどすな!お茶チュー!!」
むーんお得意の親父ギャグであった(おばさんだけど)。
しかし、解析が進むにつれどうしても乗り越えられない壁が二人に立ちはだかった。
動画間の日付の空白期間である。この空白期間がある限り、音楽を聞いても、パッケージを見てもどの年代であるか判定するのは難しかった。
むーんはパッケージを画像でリスト化した。それでもその壁は突破できなかった。
▼当初作った伊右衛門パッケージ改変画像(右下に空白期間の疑問点を指摘する記述あり)
当時のことをむーんはこう振り返る。
『あの時は次から次へと譲報が入ってきて、分かる事も増えるけど分からない事も増えていく。同名のタイトルが2つの時期にあるものも結構あって、どちらか分からない。ふらいすとーんさんとも意見が割れたりして、でもどちらとも言えるけど決定打は無い。頭はパンパンでフワフワしてくるし、もうダメかなって。ふらいすとーんさんに「もう譲報がないし、少し頭冷やしてから取り組みたい」みたいな諦め宣言ともとれる愚痴言ったりして。でもふらいすとーんさんは「僕もまたゆっくり動画の確認をしていったりでぼちぼちやろうと思っています!僕も、めざせイエモンマスターです!」なんて私のギャグを引用して励ましてくれるんです。いや、ほんとふらいすとーんさんって、紳士的でいつも優しいなって思いましたよ。それで、私ももう一踏ん張りしなきゃなって思いました。』
そんな中、むーんはあることを思い出す。それはWikiにリニューアルの日付記載がある事だった。改めてページを見返した。行けそうだと思った。一からパッケージ改変画像を作り直した。見事に年代が当てはまった。壁が突破された。次々と年代整理は進んでいった。
ふらいすとーんさんの音楽バリエーション解析も進んでいった。
「鉄琴&琴の伴奏の入り方、太鼓も鳴らし方が違っていました。あとテンポが違います。」
「○○篇のチェロのこぶしが効いていて、たぶんほかのやつと録音しなおしてるよな、と思っていたんです。」
「チェロメロディの演奏が違う、サビ前にハープのグリッサンドが入る、メロディの終わる箇所が違う」
さすが圧倒的な音楽センスと解像度の高い耳を持つふらいすとーんさんである。違いが次々と出てきた。ふらいすとーんさんの報告に改めて動画を見返し、ようやくその違いを認識し感嘆するむーん。やはり耳の解像度の違いは雲泥の差であった。
そしてついにリストが完成した。日付、音楽バリエーション、「○○篇」などの譲報がほぼ確実に整理できた。その確認済みCM総数62、音楽バリエーション12、未確認CM16。
むーんは呟いた。「流石にもうこれ以上は追加訂正無いです。むーんはもう出涸らしです(お茶だけに!)」最後まで親父ギャグ全開である。
ふらいすとーんさんは返答した。「いえいえ、むーんさんも大分スゴイと思いますよ!!ほんとにいつも脱帽です」
最後の最後まで、丁寧で心優しき配慮のできる紳士なふらいすとーんさんであった。
奇しくもその日は、新年から腸炎を患いコンサートも中止になるなど、健康が心配された久石さんのお元気そうな回復譲報がインスタに上げられた日(1/18)であった。
その日の二人の”X”の投稿はこうであった。
ふらいすとーん「(久石さんの姿を見て)安心しすぎて嬉しすぎて今日は伊右衛門がおいしい」
むーん「ついにこの伊右衛門を開封するときが来た!久石さん、お元気そうで何よりです!お姿が見れてホッとしました!伊右衛門で乾杯だー!久石さんの健康に!プロージット!!」
周囲の目には何故久石さんの回復と伊右衛門が結びつくのか疑問だった人もいたであろう。だが、二人には分かっていた。これは久石さんの回復を祝う投稿であると同時に、チーム伊右衛門のプロジェクト完成を祝した投稿だったのだ。離れた地で二人はお互いにプロジェクトの完成を伊右衛門で乾杯した。
後日…むーんからふらいすとーんさんにDMが届いた。「チーム伊右衛門の軌跡をブログにアップしていいですか?」紳士であるふらいすとーんさんが断るはずもない。こうしてこのブログはできあがった。
しかし、未だ未発見であるCMや日付譲報が不明確なCMが残っている以上、イエモンマスターへの道のりは終わっていない。チーム伊右衛門の探求の旅は全てのCM解析が終わるまで続くのである。
《エンディングテーマ曲》以下、エンドロール。
「語り継ぐ人もなく~吹きすさぶ風の中へ…(中略)…ヘッドラ~イト、テールラ~イト、旅はまだ~終わらない~♪(以下略)」
▼”響きはじめの部屋”『サントリー 伊右衛門 CM音楽』O.A.リスト *Unreleased
(相互リンクして頂きました!ふらいすとーんさんの回顧録の記載も…)
▼最終的なむーんリスト(日付順。色分け・左から4列目の番号は”響きはじめの部屋”リストの音楽バージョン番号に準拠。色の白い部分は未確認CM。)
▼最終的な伊右衛門パッケージ改変歴史画像(2008年以前に通常パッケージリニューアルは無し)
▼久石さんの回復を伝えるInstagram記事
最後までお読み下さりありがとうございます。
最後に2つだけ注釈をお読み下さい。
注釈1:あくまでこのブログは「むーん視点」で書かれており、どうしてもむーんのしてきたこと、考えたことを中心に構成されております。ふらいすとーんさんの記載が少ないのを疑問に思った方もいると思いますが、ふらいすとーんさんもむーん以上に動画検索、資料収集、情報整理など多大なご苦労ご努力・探求をされてきました(ふらいすとーんさんは2012年以降のバージョンについてもまとめておられます)。いや、一日中自由なむーんより、仕事をしながら伊右衛門プロジェクトの方も探求されてきたふらいすとーんさんの方が時間的にも精神的にも重労働だったことは想像に難くないことであります。どうぞそのことにご留意頂くと共に、ふらいすとーんさんの功績が書き切れなかった事をここに深くお詫びいたします。
注釈2:このブログはあくまで事実に基づいて構成されておりますが、文章の構成上、誇張表現や事実の前後などがあるかもしれません。どうぞご了承下さい。
「伊右衛門」「Oriental Wind」の歴史総まとめ。皆さんも伊右衛門探求の旅に出掛けられては如何ですか?
伊右衛門、久石さんって本当にすばらしいですね。
では。