●直木賞の中でも特にエンターテイメント性の強い作品だった。

 ツウじゃない精神科医がフツウじゃない治療法で患者を治していく。

 然なだけに憎めない主人公が、露出狂の美人看護婦と共に活躍していく姿が、いかにもドラマ化しそうなつくりになっている。一つの問題ごとの短編だから、読みやすいし飽きない。パターン化されているといえばそんな感じ。本の苦手な人でも、軽い気持ちで導入できると思う。

 してカッコ良くは無い中年キャラなのだが、どうも愛着が沸くというか、マスコット的位置を確立している。

 えるから是非読んでみてください。
『イン・ザ・プール』がシリーズ第一作なのでそちらから。
●自分が部落民であるという事実を隠して小学校教師をする瀬川丑松。先輩の猪子が堂々と身分を明かしている姿を見て、自分も・・・!と思うが・・・

 間の常識・通念というものは、必ずしも正しいものとは限らない。民主主義を謳う現代社会でさえ、言い換えれば「多数決なら悪も正義になりうる」社会だ。それが、部落民が世間から厳しい目で見られていた時代ならなおさらであろう。瀬川丑松のとった行動はそう考えると本当に勇気のいる行動であると言える。小説技法においても自然主義という文学界の変革を起こそうとした藤村と、その発想はどこか似ているではないか。

 の思想は主人公の周辺の人物もまた、それぞれの苦悩を抱えて並行的に描かれているという点で現れている。士族という過去の栄光を捨てられずアルコール中毒者となってしまう敬之進。そしてそんな父から引き離されるように寺に奉公に出される娘の志保。そして自分の道を迷いなく進んでそうで、それでいてどこかには弱さが見える猪子とその妻。彼らが抱える悩みは他人から見れば中々理解できないものでありながら、考えてみれば自分の主張を全て理解してくれる人間など存在するわけがないのだ、ということに気付かされる。

 のことは現代の日本で世間から非難されがちな「オタク」という人種を私に思い出させた。内面では自己を主張しようとしながら外に出ると自分がオタクであることを隠してしまう彼らの傾向も、丑松の感じていた内面的葛藤と近いものがあるのではないか。

 別の嵐の中で、自分という一人の男の存在を主張し、認めてもらおうとする。信念を貫き通すことが正しい、と言いたいのではなくて、そういった心を我々もどこかで抱えているのだということを気付かせてくれる作品だと感じた。
●刺青掘りの清吉(怪しいキャラ)→足の綺麗な女見る→あの女に彫りてぇ!!→眠らせて監禁→背中に蜘蛛の刺青を彫る→女、自分の男性に対する支配的欲望に目覚める。という話。

 は変身願望を持っている!と女性は自己発見をし、清吉は職人としての腕を試そうとする。お互い求めるものは違えども協力し合って達成したと言って良い。目覚めたら背中に刺青が彫ってあったのに全く動じない女性は、初めからどこかでそうなることを求めていたのであり、刺青を彫られた時点から急激に人格が変容する様が(彼女自身蜘蛛に取り憑かれていたのかもしれないが)それを裏付けている。

 はこの作品を読んで真っ先に、SMの世界を思い浮かべる。SM女王を仕立て上げるサディスティックな主人公は、気付くと自分もその女の虜になってマゾヒスティックな面に目覚めていた。そして女は気付かなかった女王の気質をすんなり受け入れる。巣を張って獲物を魅了し捕えて食らう、彼女の背中の蜘蛛のように。

 俗の世界ではよく見る光景である。確かに文壇にそのようなアブノーマルなテーマが持ち出されたら、人目を引くことは間違いない。が、誰もが目を逸らしていたテーマに取り組んだのはエライ。その点で、最近芥川賞を受賞した『蛇にピアス』と非常に近い物を感じた。しかし人間の深層心理を抉り出すことで自らのストレスをも発散した気になるというのは分からないでもないが、どこか開き直っているようにも感じられる。

 青を入れたのは背中であり、「彼女からは見えない」という点。開放された欲望を実は直視できないでおり、評価をするのはあくまで男性達という部分でやはり男性の書く作品だなぁ、と実感させられた。

 ンネーム、見れば見るほどやらすぃ~よな。(正直な感想)
●今回の乙一はあまりどんでん返しが強くなかったのが印象的でした。それにしても、この作品にしろ「暗黒童話」にしろ乙一は井原西鶴を読んだことがあるんじゃないかと思いました。授業で「万の文反古」やら何やらを取り上げた時に、「カラス=目抜き鳥」とか「死ぬことの出来ない男」とかいろいろ出てきて、スゴイかぶってるじゃんと思ったんですよ。余談ですが井原西鶴も面白いので是非読んでみてください。「西鶴と江戸のミステリー」という本、学校で教科書として使用しているのですが、現代語訳されてて面白いですよ。

 は戻りますが、私としては最初の「A MASKED BALL」が面白かったです。学校のトイレの落書きが(まるでBBSのように)会話になっていって、次第にホラーな世界に引きずり込まれていくんですけど、犯人探しが面白いです。まぁ伏線が色々張ってあるので解りやすいですが。一作30分~1時間もあれば読めます。電車の中など最適。

 狐の方は「こっくりさん」の妖怪に魂を売り渡した男の末路を描いた作品なんですが、割と救いようがないのでスッキリはしません。妖怪側の設定とかがあやふやだし、ラストもなんか煮え切らない。犯人の設定を書かないのであれば、『ZOO』の「Seven Rooms」のが数百倍面白いです。 エンターテイメント風な作品を売りにするのであれば、これは少し物足りなかったかな。真面目過ぎる心理描写とかあんまりいらないかも。
●秀才だが要領の悪い文三と、ミーハーな従妹・お勢、要領はいいが軽薄な昇の三角関係を中心に、官僚腐敗を批判した、近代リアリズム小説。言文一致を成し遂げた未完小説でもある。

 三と昇、お勢とお政、四者が各々の果たすべき役割をきっちり守り、歯がゆい人間関係を寧ろ整然と見えるほどに演出している。まさに出来すぎた物語だが、不自然ではない。ありがちな男女関係・上下関係を無駄なくさらりと書き上げている。

 を踏んだ調子のいい文章、諸所に散りばめられる洒落冗談、その奥に含まれた痛烈な社会風刺。処世術を知らない者は惨めな思いをするばかりで、正しいことをしているのに報われない。文三は男としては意気地なしだが、人のいい青年であるがゆえに私は最後まで彼を憎むことはできなかった。

※詳しい感想は後に課題提出してから書き加えたい。

感想文に書くまでもないけど今見ると笑える外国語交じりの文

・「だって『ボート』の順番を『クラッス(級)』の順番で決めるというんだもの。」
・「なぜまたそうDespairを起こしたもんだネ。」
→なんかカッチョイイですね。
●官僚制に抗えなかった哀れな男の末路と聞いたけれど、まさにその通りな話だった。社会批判に使うにはもってこいだが、小説として読むと痛々しい部分が多いのではないか。エリスの扱いも女性の視点から見たら惨いものである。しかし、彼女とて男に頼っていた部分も多かったのだからお互い様といえばそれまでなのであるが。
 
 人的には他の純文学より好みではない。ラストに救いの兆しがない小説は嫌いだ。鴎外自身が社会批判として描いたのであれば、多くの読者が豊太郎を酷評するのはおかしいのではないか。肝心の大臣や密告した留学生はさほど悪い印象を与えていないようにも思われる。

 太郎は、元よりエリスを愛してはいなかったと私は思う。舞姫という職業故の軽視、異国の地での不安、マザーコンプレックスの表れ、地位の揺らぎから来る鬱憤、権力の誇示願望、そして彼女に対する憐憫の情が、彼女を愛していると錯覚させた。出世と愛の間で「迷う」行動を取ってしまった時点で、彼はエリスを本当の意味で愛していなかったのだ。一時の慰みとしてしか、彼女を見ていなかったのである。
 
 かしそれを別に全体の構図を考えれば、私は特にエリスの美しさに目が行った。「舞姫」という立場上、彼女を美しくさせるものは、惨酷なまでの悪条件だ。貧乏で地位も力も無い、か弱い女。男にすがることでしか生きられない女。身ごもった上、最愛の男に捨てられる女。唯一の武器は、詩人の才能がなければ表現できないほどの美しさ。これら全てが、エリスという少女を完璧なまでの「守ってやりたい女」に至らしめているのだ。

 惨な状況に追い込まれてこそ、哀れで惨めな境遇に立たされてこそ、彼女という存在は儚く美しく輝ける。逆に言えば、彼女が無事豊太郎と結ばれハッピーエンドになったのでは、エリスという女も普通のどこにでもいる女にしか見られなかったのではないか。その点では、鴎外の描くエリスは日本男児の理想であり、彼自身の重ねる理想の母親像だったのではないかと思う。

 う考えると豊太郎の酷い仕打ちも必然的であり、私自身そんな冷たい扱いをされて愛を確かめたいとも思ってしまう。結ばれるばかりがハッピーエンドではない。 
 
 かし決定打はやはり彼の本名「森 林太郎」ではなかろうか。随分木が多いなぁ、ヘタしたら「森林 太郎」だぞ、というこの危険と隣合わせの彼の人生が大好きだ。
●課題を差し置いて読みきりました。宮部氏の世界観が大好きなので。ネタバレは無しです。ヾ(o´∀`o)ノ

 は小説から入った型なので、特に違和感なく読めた。やはりゲームをプレイした人からしたら期待を裏切られた部分もあるのかも。特にヒロイン・ヨルダの方に。
 
 十年かに一度、生贄として霧の城に差し出される角の生えた少年、イコ。城で出会った謎の少女の手を引いて、彼は闇の力に立ち向かう。予想だにしなかった厳しい現実と少女の悲しい過去を知りながら、イコは少しずつ強くなっていく。純粋でひたむきな少年の冒険を楽しんでもよし、神秘的で透明感溢れる城の描写を愉しんでもよし。ゲーム好きの彼女が書くからこそ、諸所に気を配った精巧な霧の城が出来上がっている。

 部氏の描く世界には、リアルな悪意がある。我々の生活に置き換えるのが容易な、生々しい人間の欲望、真理がある。現実世界との共時性の高さが、作品を単なるファンタジーでは終わらせないのだ。それはブレイブストーリーも変わらない。

 た、表現の美しさは格段にレベルアップしているように思えた。p119の韻を踏んだ人影の描写。p138の少女の描写。細かく挙げればキリがないが、文節が織り成す絶妙なリズムが、私のからだをさざ波のように震わせる。読んでいて心地よくなれる、そんな文学。レベル7期の彼女の文章はやや硬く、導入するのに時間がかかってしまったが、ここ数作は暖かい文章が増えたような気がする。

 ステリーも良いけれど、氏にはまたこういった作品を書いてもらいたい。
●とりあえずあらすじがあまりネット上にも載っていないので、自ら書きます。感想文書きたいんだけど読むのが面倒な方はこんな文で良ければ参考にしてクダサイ。

 性視点の物語は共感できる部分があって素直に読めるなぁ・・・。ただスイマセン、最初の二、三ページは文体慣れしてなくてほとんど分からなかったデス(汗)勉強勉強;

 台は吉原。街は正太郎と長吉、それぞれをを大将に組が二分していた。人気遊女を姉に持つ14歳の少女・美登利は、羽振りが良く活発で、正太郎の仲間。一方長吉は、頭の良い後の僧侶候補・信如を味方につけ、喧嘩をしかける。美登利と信如、2人はそんな中出会った。初め、大人しい気質の信如は美登利の無邪気な接近を疎ましく思うが、次第にお互いを意識しだす。しかし運命とは数奇なもので、徐々に大人の世界に入ってゆくにつれ、2人は別々の道を歩み始める。遊女としての振る舞いを覚えた美登利と僧侶の学校へ進む信如。無情に進む時の中で、淡く切ない恋心が交錯する。

 るで子供の世界のロミオとジュリエットだ。脇役の正太郎、長吉もいい味を出している。美登利といい仲になりながら先に大人になろうとする彼女に置いてけぼりをくらった正太郎に、暴力的ではあるものの、貧乏にも関わらず熱い友情をもって信如を助ける長吉。しかしやはり子供は子供。いい子ばかりで微笑ましい。

 にお互いの思いを伝えることができなかった2人だが、ラストで信如が美登利に水仙をそっと送るシーンは一応ハッピーエンドというべきか。しかし水仙は水辺に咲く花、ナルシスの花。女性を象徴し、花言葉は神秘。作り花であることが「根のない花、生産性のない花」を表し、「離別」への伏線である。その花によって美登利は少なからず信如の気持ちを受け取ったはず。お互いに打ち解けあおうというところでの別れは辛すぎる。

 口一葉は幼い頃から貧乏で、金持ちで何不自由のない主人公・美登利はある種理想の姿であったのではないか。しかし生まれつき優秀な姉を持ち、ゆくゆくは遊女としての道を歩まなければならないその束縛感を、どこかで自分と共有していたのではないだろうか。

 の記述が多く、そこを重点的に想像できるようになればもっと深く読める部分があったように思われるのが残念だ。
●宮部氏の初長編ファンタジー作品です。小学生のワタルが旅する、剣と魔法と冒険の物語。ジャパニーズファンタジー。

ーム好きの彼女だけあって、細かなところまでRPGに忠実です。内容を見て最初に思い浮かべたのは「ポケモン」ですが、直木賞作家のファンタジーは「広い世界が見たいから」なんて単純な動機じゃ始まりません。

わじわと崩壊していく家族、ライバルの悲しい過去・・・それぞれのキャラクターの裏に潜む複雑で切ない設定が、冒険の世界を更に重いものに仕上げています。

みやすく、心に残りやすい色とりどりの表現に、二度や三度同じページをめくってしまうことは必至ですよ。

直、漫画の方はあんまりオススメできません。
(個人的に絵が好きじゃない^^;)

●私がパソコンを買ってまずやりたかったのがチャット。それはこの本を読んだからだ。

 台は光ネットワークで結ばれた住宅街。
 原因不明の怪死を遂げる若者達の謎を解くべく調査に乗り出す2人の刑事。
 ネットという水面下で動き出す少年少女。
 "外の世界"にじわじわと漏れ出す中毒者たち。

 の静かすぎる不気味さが一見平和に見える町を侵食していくさまは、読んでいて小気味良い。月の満ち欠けとチャットの世界を織り交ぜて、挿入される神秘的な歌が世界観をぐっと美しく仕上げている。夏の滴を「青葉色」で表現するならば、こちらの作品は「白銀色」の子供達と言えるだろう。

 報化社会に依存する人々の危うさ、脆さを物悲しく語ってくれる秀作だ。

 井氏の「集団恐怖小説」の中でも一番オススメしたい。