第十二章

鳥居の向こうに、まだ知らない自分

大学に入ってすぐ、
美玖は“神社巡りが好き”という話を、

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【写真説明】

「好き」を言葉にしたら、

風が少しだけ、やさしくなった気がした。

神社巡りサークル、立ち上げたばかりの春。

校舎の前で、まだ知らない仲間を待っている。


同じゼミの子にぽろりと話した。

「え、それめっちゃいいじゃん!
うちの大学、そういうサークルないし、作っちゃえば?」



「えっ、私が?」

「うん。
“全国の神社を巡る会”とか、絶対人集まるって!」

最初は戸惑ったけれど、
気づけば、
「神社巡りサークル(仮)」の立ち上げ申請書を出していた。

週末ごとに、
小さな神社を訪ねては、
境内の空気を吸い、
木々の音に耳を澄ませる。

“この静けさが、好き”

誰かに説明するのは難しいけれど、
神社の空気に触れると、
自分の輪郭が、少しだけはっきりする気がした。

ただ——
稲荷神社だけは、避けていた。

理由は、うまく言えない。
鳥居が連なるあの赤い道を歩くと、
なぜか胸の奥がざわつく。

サークルの仲間に聞かれたとき、
「なんとなく、あの雰囲気が苦手で」
と笑ってごまかした。

でも本当は、
あの赤い鳥居のトンネルが、
“誰かの視線”を思い出させるからだった。


第十二章

掲示板の前、風に揺れる紙一枚

昼下がりの廊下。
学生会館の掲示板の前で、
美玖はA4の紙を手に立ち止まった。

「……ここで、いいかな」

「目立ちすぎず、でも見える位置がいいですね」
隣で小野寺さんが言う。

「じゃあ、このへん……」

美玖は、
少しだけ手が震えるのを感じながら、
画鋲を押し込んだ。

『神社巡りサークル(仮)メンバー募集』

・週末や長期休みに、全国の神社を訪ねます
・歴史や文化に興味のある方、初心者歓迎
・稲荷神社は対象外です
・興味のある方は、メールまたは掲示板下のQRコードからご連絡ください

「……貼っちゃった」

「うん。
これで、誰か来てくれるといいですね」

「……うん」

掲示板の紙が、
春の風にふわりと揺れた。

その揺れが、
どこか心の奥にも似ていて、
美玖は少しだけ、
胸の奥がくすぐったくなるのを感じた。


 

第十二章

年上たちの輪の中で、真ん中に立つということ

初回の顔合わせは、
学生会館の和室だった。

畳の上に円く座った6人。
2回生がひとり、3回生がふたり、4回生がひとり。
そして、美玖と小野寺さん。

「……じゃあ、まず自己紹介から」

美玖がそう言うと、
年上のメンバーたちが、
自然にうなずいた。

「部長は、美玖ちゃんでいいよ。
このサークル、立ち上げたの美玖ちゃんなんだし」

3回生の先輩が、
やわらかく言った。

「え、でも……私、1回生で……」

「関係ないよ。
“やりたい”って言った人が、
いちばん真ん中にいるのが自然だと思う」

その言葉に、
美玖は少しだけ目を伏せた。

“やりたい”って、
そんなに強い気持ちだったかな。

でも、
神社の静けさが好きで、
旅の空気が好きで、
誰かとそれを分かち合いたいと思った——
それは、たしかに自分の中から出た言葉だった。

「……じゃあ、がんばります。
部長、やってみます」

「よろしくね、部長さん」

「はい。
よろしくお願いします」

その瞬間、
年齢や学年を越えて、
ひとつの輪がふわりと結ばれた。


第十三章(新設)

名前を書くということ

「……ここに、代表者の名前を」

学生課の窓口で、
職員が申請書を指さした。

美玖は、
手に持ったペンを見つめたまま、少し黙った。

「どうかしましたか?」

「いえ……すみません。書きます」

“代表者:佐伯美玖”

その文字を、
自分の手で書いた瞬間、
胸の奥が少しだけざわついた。

“代表者”って、
ただの肩書きじゃないんだ。

そのあと、
活動計画書、予算案、備品の管理方法——
提出すべき書類は思ったより多かった。

「これ、全部……私が?」

「はい。代表者の方が責任を持って管理してくださいね。
もちろん、メンバーと分担してもらって構いませんが、
最終的な責任は代表者にあります」

その言葉に、
美玖は小さくうなずいた。

“好き”って言っただけなのに、
“やりたい”って思っただけなのに、
こんなにたくさんの“責任”がついてくるんだ。

でも——

それが、社会ってことなんだ。

誰かに「やって」と言われたわけじゃない。
自分で「やりたい」と言ったから、
その先にあるものも、
ちゃんと受け取らなきゃいけない。

それが、
“自由”の代わりに差し出すもの。


 

第十三章(挿入)

“先輩”じゃなく、“わたし”が言うということ

顔合わせのあと、
和室の片づけを終えた帰り道。
美玖は、小野寺さんと並んで歩いていた。

「……なんか、変な感じです」

「何がですか?」

「中学も高校も、
部長って、だいたい3年生だったから。
“先輩が決めて、下がついていく”っていうのが普通で……」

「でも、大学は違いますよね。
“誰が上か”より、
“誰が始めたか”のほうが大事になる」

「……そうなんですね」

「それに、
“やりたい”って言える人って、
案外少ないですから」

美玖は、
その言葉を聞いて、
少しだけ足を止めた。

“やりたい”って言っただけなのに、
気づけば、誰かの前に立っていた。

それは、
まだ慣れないし、
ときどき怖くもなるけれど——

“誰かの後ろに隠れていた頃より、
少しだけ、自分の声が届く気がする”

「……がんばります。
ちゃんと、部長やってみます」

「はい。
わたしも、ちゃんと支えますから」


第十三章

呼び方を変えるという、小さな決意

「……あの、ひとつ提案なんですけど」

顔合わせの翌週、
サークルのグループチャットに、
美玖がメッセージを送った。

“このサークルでは、学年に関係なく、
苗字で呼び合いませんか?
私も「先輩」って言い方、やめようと思ってます。”

最初に既読がついたのは、3回生の高橋さんだった。

“いいと思うよー!
美玖ちゃんが部長なんだし、
そういう空気にしていこう😊”

続いて、4回生の中村さん。

“了解。じゃあ私は「佐伯さん」って呼ぶね。
こっちも「中村」でOKです。”

そのやりとりを見て、
美玖はスマホを胸に抱えた。

“呼び方を変えるだけで、
こんなに空気がやわらかくなるんだ”

中学や高校では、
「先輩」「後輩」という言葉が、
当たり前のようにあった。

でも、
ここではそれを手放してみる。

年齢じゃなく、
“今ここにいる自分たち”でつながっていく。

それが、
このサークルのかたちになっていく気がした。


第十五章

青木 春、という人

 

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【写真説明】

「気づいたら、目で追ってた」

自分の中に、こんな感情があったなんて。

名前を呼ぶたび、

その声が、自分の中に残っていく。

はじめて人を好きになった春。 大学の階段で、心が静かに動き出す。



「……あ、2回生の青木です。青木 春って書いて“はる”って読みます。
春に生まれたから、って親がつけたらしいです」

自己紹介のとき、
彼は少し照れたように笑った。

黒髪は少し長めで、
前髪が目にかかるたびに、
指でそっとかき上げる。

声は低めだけど、
どこか音の端がやわらかくて、
美玖は思わず、
「春っぽい……」と心の中でつぶやいた。

「神社は、もともと詳しくないんですけど……
静かな場所、好きなんで。
あと、なんか、佐伯さんの文章がよかったんで、来ました」

「えっ、私の?」

「うん。掲示板のやつ。
“鳥居の向こうを歩いてみませんか”って、
なんか、いいなって思って」

その言葉に、
美玖は少しだけ頬が熱くなるのを感じた。

この人は、
言葉をちゃんと受け取ってくれる人だ。


 

第十六章

袖の先、指先の距離

神社の参道を、6人で歩いていた。
春の陽ざしが、木漏れ日になって足元を照らす。

「この狛犬、ちょっと珍しいですね」
小野寺さんが立ち止まり、スマホを構える。

「阿形と吽形が逆になってるかも」
高橋先輩が横からのぞき込む。

美玖は、
少し離れた位置で、
境内の空気を吸い込んでいた。

春は、その隣を歩いていた。
ほんの少し、距離をあけて。

“手、つなぎたいな”

ふと、そんな言葉が頭をよぎった。

でも、言えるわけがない。
言ったら、空気が変わってしまう。

だから、
そっと袖に手を伸ばした。
でも、触れる直前でやめた。

“今、触れたら、ばれる”

気持ちが、
みんなにばれてしまう気がした。

歩いているうちに、
美玖の手がふと揺れて、
春の指先に、かすかに触れた。

その一瞬、
心臓が跳ねた。

でも、美玖は気づいていないようで、
そのまま前を見て歩いていた。

春は、
その指先の感触を、
ずっと忘れられなかった。

第十七章

角部屋の灯り

アパートの1階、角部屋。
春は、玄関の鍵を閉めると、
そのまま壁にもたれかかった。

誰もいない部屋。
でも、心の中はざわざわしていた。

「……なんで、こんなに苦しいんだろう」

胸のあたりを、
両手でそっと押さえる。

今日、美玖の指先がふれたとき、
心臓が跳ねた。
でもそれ以上に、
“自分が自分でいられない”感覚が、
あとから押し寄せてきた。

ジーンズを脱いで、
部屋着に着替えようとしたとき、
ふと、鏡に映った自分の姿に目が止まった。

女子用のショーツ。

「……これが、今の“自分”なんだよな」

誰にも言っていない。
言えるはずもない。
でも、
“これが落ち着く”という感覚だけは、
ずっと前から、確かにあった。

春は、
ベッドに腰を下ろし、
カーテン越しの光を見つめた。

“この気持ちを、
誰かに話せる日は来るんだろうか”


第十八章

名前のない違和感

小学生の頃、
体育の着替えの時間が、いちばん苦手だった。

「青木、早くしろよー」
男子たちの声に、
笑って返しながら、
心の中では、
“私は、ここにいていいのかな”
いつも思っていた。

胸はふくらまなかった。
生理も来なかった。
でも、
“私は女の子だ”という感覚だけは、
ずっと、消えなかった。

誰にも言えなかった。
言ったら、全部壊れる気がした。

だから、
“男の子”としてふるまった。
スポーツも、勉強も、
「青木、頼りになるな」って言われるように。

そして、大学2年。

神社の境内で、
美玖の指先がふれたとき、
心が、
“女の子として、誰かに触れられた”と感じた。

その感覚が、
怖いくらいに、
うれしかった。


📱サークルLINEグループ投稿(美玖より)

【🌸春のミステリーツアー開催のお知らせ🌸】

日時:○月○日(日)朝7:00 名古屋駅西口ロータリー集合

内容:
行き先は当日まで秘密です!
ちょっと不思議で、ちょっと神聖で、
ちょっと笑えて、ちょっと考えさせられる——
そんな“春の一日旅”を一緒にしませんか?

持ち物:
・歩きやすい靴
・飲み物
・お賽銭(小銭多め)
・好奇心

※運転は中村先輩が担当してくださいます🚐✨

参加希望の方はスタンプでお返事ください〜!


 

第二十二章

隣に座る理由

「じゃあ、みんな乗って〜。荷物は後ろに積んでね〜」
中村先輩の明るい声が、朝の空気に響く。

美玖は、
後部座席のドアが開くのを見ながら、
一瞬だけ迷った。

“どこに座るか”——
それだけで、空気が変わることがある。

春くんは、
すでに2列目の窓側に座っていた。
リュックを膝に抱え、
少し緊張したような顔。

美玖は、
その隣に、
そっと腰を下ろした。

「おはよう、春くん。今日はよろしくね」

「……あ、はい。こちらこそ」

春の声は、
いつもより少しだけ高くて、
少しだけ震えていた。

“この子、やっぱり少し浮いてる。
でも、ちゃんと見てる人は見てる。
私は、部長として、それを忘れちゃいけない。”

車が動き出すと、
春くんは窓の外を見ながら、
ときどき、
美玖のほうをちらりと見た。

美玖は気づかないふりをして、
静かに目を閉じた。

“今日一日、
この子が安心していられるように。
それが、私の役目。”


第二十四章(美玖の内面)

坂道を登りながら、
美玖は、
少し後ろを歩く春の気配を感じていた。

息が上がる音、
足音のリズム、
ときどき立ち止まる間合い。

“無理してないかな。
ちゃんと、ついてこれてるかな。”

この神社をルートに入れたとき、
中村先輩には「ちょっとマニアックだけど」と笑ってごまかした。

でも本当は——
春くんのことを思って選んだ場所だった。

田縣神社で、
みんなが笑う中、
春くんだけが少しだけ遠くにいた。

その姿が、
ずっと胸に残っていた。

“じゃあ、今度は——
“女性の身体”を祀る場所に、
一緒に行ってみたらどうだろう。”

それは、
試すような気持ちではなく、
“あなたがいてもいい場所は、ちゃんとある”
伝えたかっただけ。

でも、
そんなことは言えなかった。

言葉にした瞬間、
何かが壊れてしまいそうで。

だから、
ただ坂を登る。
ただ、隣を歩く。

“私は、部長だから。
でもそれ以上に、
あなたの味方でいたい。”


春は、

少し息を切らせながら、
前を歩く美玖の背中を見つめていた。

“この人は、
どこまで知ってて、
どこまで導こうとしてるんだろう”

坂の終盤、
木々の間から、
ぽっかりと開けた場所に出た。

そこに、
ひとつの岩があった。

丸みを帯びたその形は、
誰が見ても、
“女性の身体”を象徴しているとわかるものだった。

「……あれ、もしかして……」
結月が、
小さくつぶやいた。

誰も、
すぐには言葉を発さなかった。

「これは、“姫石”って呼ばれてるんだって」
美玖が、
静かに説明した。

「女性の身体を象った岩で、
安産とか、女性の健康を祈る場所。
ここも、ちゃんと“祈りの場”なんだよ」

誰かが笑うことも、
茶化すこともなかった。

春は、
その岩を見つめながら、
胸の奥が、
じんわりと熱くなるのを感じていた。

“私は、
この形を、
どこかで知っている気がする。”

でも、
それを言葉にするには、
まだ時間が必要だった。


第二十四章

問いかけは、風のように

坂を下りきったところで、
小さな広場に腰を下ろした6人。

水筒を回し飲みしながら、
それぞれが静かに息を整えていた。

そのとき、
美玖がぽつりと口を開いた。

「ねえ、みんな……
さっきの神社と、その前の神社で、
何をお願いした?」

誰もすぐには答えなかった。

春は、
手にした水筒のキャップを閉めながら、
その言葉の“温度”を感じていた。

“答えを求めてるんじゃない。
ただ、心の中をそっと見つめるきっかけとして、
投げかけてくれたんだ。”

「私はね……」
結月が、
少し照れたように言った。

「秘密。
でも、ちょっとだけ、
自分のことを大事にしようって思った」

「いいね、それ」
中村先輩が笑う。

「私は……なんだろうな。
まだ、うまく言葉にならないや」
小野寺さんがつぶやいた。

春は、
何も言わなかった。

でも、
“言わない”という選択が、
この場ではちゃんと許されている
と感じた。

美玖は、
みんなの顔をひとつずつ見渡して、
それから、
静かにうなずいた。

「うん。
それで、いいと思う」

風が、
木々の間をすり抜けていった。


 

第二十四章(美玖の独白)

「春くん、これ持つ?」

そう言って、
ペットボトルを差し出したとき、
自分の口から出た“呼び方”に、
美玖は一瞬だけ、心の中でつまずいた。

“……また、名前で呼んじゃった。”

坂を下りきって、
みんなが笑いながら水を飲んでいる間、
美玖は少しだけ、
みんなから距離をとって腰を下ろした。

“最初に決めたのに。
私は部長なんだから、
みんな平等に、名字で呼ぼうって。”

でも、
気づけばいつも、
春のことだけ「春くん」と呼んでしまう。

“どうして?”

その問いは、
自分の中で何度も反響する。

“守ってあげたいから?
気にかけてるから?
それとも——
ただ、好きだから?”

答えは、
まだ出ない。

でも、
その呼び方だけが、
美玖の“本音”を先にこぼしてしまう。

“名前って、
こんなにも、
気持ちが出てしまうものなんだ。”


 

第二十五章

下山の合図

「そろそろ、下りようか」
美玖が、みんなに声をかけた。

池のほとりでの写真撮影もひと段落し、
それぞれが静かに余韻に浸っていた。

「御朱印ほしい人は、社務所に寄ってね。
たしか、下の鳥居の近くだったはず」

「え、もらえるの? 知らなかった〜」
「私、集めてる! 行く行く!」

「じゃあ、私もついでに……」
「御朱印帳、車に置いてきちゃった……」

笑いながら、
それぞれが荷物を整え始める。

春は、
少しだけ遅れて立ち上がり、
池のほとりをもう一度だけ見つめた。

“ここで、美玖さんを名前で呼んだ。
ここで、写真を撮ってもらった。”

その記憶が、
静かに胸に残っていた。

「春くん、行こっか」
美玖が、
ふと隣に立って声をかける。

「……はい」

春は、
その声に背中を押されるように、
ゆっくりと歩き出した。


第二十五章(石段の途中)

石段を半分ほど下ったところで、
ひとりの女子大生が、
ふと立ち止まった。

「……あれー」

みんなが振り返る。

「どうしたの?」
美玖が声をかける。

「いや、なんか……
さっきまでお腹重かったのに、
ちょっと楽になってる気がする」

彼女は、
お腹をさすりながら、
不思議そうに笑った。

「今朝、生理きちゃってさ。
正直、今日のツアーしんどいかなって思ってたんだけど……
ここ来て、参拝したら、
なんか、ふっと軽くなった感じ」

誰もすぐには言葉を返さなかった。

でもその沈黙は、
気まずさではなく、
“わかる”という静かな共感だった。

春は、
その言葉を聞きながら、
胸の奥がじんわりとあたたかくなるのを感じていた。

“身体って、
ちゃんと感じてるんだ。
場所とか、空気とか、
祈りとか。”

美玖は、
その子の背中をそっと叩いて、
「それ、よかったね」と微笑んだ。


第二十五章(終盤)

知っている者たちの沈黙

「……今日は、ありがとう」

春のその一言に、
みんなが「こちらこそ〜」と笑い、
車へと歩き出す。

その中で、
美玖はふと立ち止まり、
春の背中を見つめた。

“あの子が“ありがとう”って言うときは、
ただの挨拶じゃない。
あれは、きっと——”

隣にいた中村先輩も、
同じように春を見ていた。

「……言ったね」
先輩が、ぽつりとつぶやく。

美玖は、
小さくうなずいた。

「はい。
やっと、言えたんだと思います」

「うん。
あの子なりに、
今日、何かを越えたんだろうな」

ふたりの声は、
誰にも聞こえないほど小さかった。

でも、
その沈黙の中には、
春の“ありがとう”が持つ重みを、
ちゃんと受け止めた者だけの静かな共感
があった。

春は、
もうワゴン車のドアを開けて、
後部座席に乗り込んでいた。

夕暮れの光が、
その頬をやわらかく照らしていた。


 


第二十五章(終章)

名古屋駅にて

午後4時すぎ。
ワンボックスの車は、名古屋駅のロータリーに滑り込んだ。

「ここで降りる人は、荷物忘れないでね〜」
運転席の梨乃が、いつもの調子で声をかける。

「おつかれ〜」「楽しかったね」
「写真、あとで送って〜」
「また行こうね、今度は犬山城!」

そんな声が飛び交う中、
春は静かにドアを開け、
駅の喧騒に足を踏み出した。

“ああ、戻ってきたんだ。
でも、行く前と同じじゃない。”

キャリーケースの車輪が、
アスファルトの上で軽やかに転がる。

その音が、
なぜか心地よく響いた。

ふと、背後から声がした。

「春くん、気をつけて帰ってね」

振り返ると、
梨乃が運転席の窓から顔を出していた。

「……はい。ありがとうございました」

春は、
ほんの少しだけ笑って、
軽く頭を下げた。

そのとき、
美玖が車内から手を振った。

春は、
その手に気づいて、
小さく手を振り返す。

“僕は、ここにいていい。
そう思えた一日だった。”

駅の構内に入ると、
人の流れとアナウンスの音が、
一気に現実へと引き戻してくる。

でも春は、
胸の奥に残る静かな光を、
そっと抱きしめるように歩き出した。


 

第二十五章

駅前の誘い

春が駅の構内へ向かおうとしたとき、
背後から、ふたたび声がした。

「春くん」

振り返ると、
美玖が車から降りてきていた。

「……どうかしましたか?」

「ううん、ちょっとだけ。
みんな、もう行ったよね?」

周囲を見回すと、
確かに他のメンバーの姿はなかった。

美玖は、
少しだけ間を置いてから言った。

「ねえ、春くん。
マックでさ、立ち飲みしない?」

「……え?」

「いや、ほら、あそこ。駅前の。
立ち飲みっていうか、立ち食い?
ちょっとだけ、話したいことがあるの」

春は、
一瞬だけ戸惑った。

“話したいこと……?
なんだろう。
さっきの“ありがとう”のこと?
それとも——”

でも、
その問いには答えずに、
春は静かにうなずいた。

「……いいよ。
時間、あるし」

美玖は、
ふっと笑った。

「じゃあ、行こっか。
ポテト、Lサイズにしよ」

春は、
その言葉に少しだけ肩の力が抜けて、
美玖のあとをゆっくりと歩き出した。


 

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【写真説明】

「ねえ、春くん。……友達以上になってほしい」 マックの立ち飲み席。 ポテトの塩気とアイスコーヒーの苦みの向こうで、 美玖の声が、静かに春の胸にしみていく。 駅前の喧騒の中、ふたりだけの時間が、 まだ旅の続きを描いていた。

🌟 みんなで広げよう!🌟

 

『輝虹会スターレインボー』の活動をもっと多くの人に知ってもらうために、ぜひSNSで投稿をお願いします!
ハッシュタグ #スターレインボーを付けて、活動の魅力やイベントの様子を共有してください。
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