2007/02/15



 大海で漁船が衝突され、転覆する。乗組員は海へ投げ出された。春間近とはいえ、水は冷たい。だが、船長が積んでいた救命いかだ(ボート)が、命を守った。

 宮崎県・都井岬沖の太平洋で、日向市漁協所属のマグロはえ縄漁船「幸吉丸」が転覆し、行方不明になっていた船長らが、遭難から三日ぶりに救助された。

 三人は、救命いかだで漂流しているところを第十管区海上保安本部のヘリに発見された。いかだに備え付けの水や乾パンを食べて空腹をしのいでいた。大したけがもなく、無事でよかった。

 幸吉丸は八日、日向市の港を出港し、鹿児島県の奄美大島近海へ向かう途中で消息を絶った。船長らの話では、九日午前十時ごろ、種子島の南東海上で大型船に衝突された。転覆した漁船の破断面には塗料が付いており、十管は衝突したとみられる貨物船の特定を急いでいる。

 救命いかだは通常、折りたたんだ状態で船に固定されており、緊急時には簡単な操作で鎖が解け、着水する。水圧で中のガスボンベが開栓し、膨らむ。いかだには水や食料、レーダー反射材が付いている。

 二十トン未満の漁船には、小型漁船安全規則が適用され、沿岸百カイリを超えて操業する船(二種)は原則、救命いかだを装備しなければならない。しかし、百カイリ以内で操業する約九トンの幸吉丸のような船(一種)は適用外で、備える義務はない。

 その船が救命いかだを積んでいたのは日向市漁協で以前、はえ縄漁船が遭難する事故があったからだ。はえ縄漁は船に負荷がかかり、事故が起こりやすい。

 日向市漁協は水揚げの約八割をマグロはえ縄漁に依存し、操業の安全に特に注意を払ってきた。日向漁協に限らず、県内の他の漁協にも取り組みが広がっている。

 宮崎県では毎年、漁協が漁業関係者を対象にサバイバル訓練を実施し、いかだの扱い方などを研修してきた。昨年夏に実施した訓練には、救助された幸吉丸の船長も参加していた。関係者の自覚と地道な努力が非常時に生きた、ということだろう。

 ただ、どの漁船にも求められることではないようだ。その証拠に一種船舶に救命いかだを装備する漁協は、他に全国でほとんど例がない。救命設備は取り付けて終わりでなく、定期検査があり、費用は船主の負担だ。それが大きな壁になっている。

 とはいえ、水産国・日本にとって近海での操業の安全は重要な課題である。今回の生還は、不慮の事故から身を守る備えの大切さをあらためて教えてくれた。