そうそう兄ちゃんといえば・・・・
最近威勢のいい兄ちゃんが少ない。実に嘆かわしいことだ。そういう私も含まれているかもしれない。
ひとつは<威勢良くしていい場所>が身近にないということもある。しかし威勢=バイタリティー=生きる力=男性ホルモンなどと考えると、事態は深刻だ。頭に浮かぶのはその昔、<貧弱な坊や>のコピーに小学生ながらなぜか自尊心が傷ついた、あの<ブルーワーカー>の宣伝と、右手にスッポンを持ちながらニカッと笑う、<だるま堂?>のメガネおやじの顔が頭を駆けめぐる。これは考えるまでもなく非常に苦痛である。
だから街なかで不必要なくらい威勢のいい兄ちゃんを見ると、目を細めて見てしまう。
それはまるで、自慢の娘をデカデカと年賀状一面にプリントして(しかもお世辞にも可愛いとは言い難いタイプ)仕事関係の人にまで送りつける幸せな気分に似ているかもしれない。(親類、縁者だけにしませう。心臓に良くない。こんなに大きくなりましたなんて書いてあると・・・)
先日久しぶりにそんな幸せな気持ちにしてくれる、威勢のいい二人組の兄ちゃんを見た。
ここは大阪、天神橋近くにある某うどん屋。測り間違えたとしかいいようがないカウンターのイスの間隔は、<汁を飛ばさず食べましょう>という張り紙に、妙な説得力を与えている。
限りなく立ち食いに近いイスに腰をかけて、私はぼんやりとひとつイスの向こうに座る二人を見ていた。
キツネうどんにいなり寿司。カレーうどんとおにぎりをいかにも慣れたコンビネーションで口に運んでいる二人の隣に彼は現れた。
いかにも旅行者風、CWニコルさんをもっと貧相にしたような、年の頃なら35歳くらいの外人さんが、結構うまい日本語でキツネうどんを注文し、慣れた手つきで七味唐辛子をたっぷりと振りかけたとき、事件は起こった。
今までカレーうどんを食べてた兄ちゃんが、いきなりその外人さんに叫んだのだ。
「兄ちゃん、激辛やのう・・・」
するとすかさず、ツレの兄ちゃんも外人さんのキツネうどんをのぞき込みぼそっとひとこと
「ほんまや、激辛やで、ゲキカラ。」
驚いたのは、ガイジンさん。
そこそこ日本語も分かるようになってきて、自信もついてきたというのに、急に自分の食べ物をのぞき込まれ、その上怒っているんだろうかと思うくらい、威勢のいい早口の大阪弁で<激辛>などといわれたからたまりません。
初めてニホンに来てヤバイと感じたのでしょう。自信を失くした不安な目で私に尋ねたのです。
「ワタシ ナニカ マチガエ マシタカ・・・」
私はニューヨーク仕込みの、とびっきりの肩をすくめるポーズを決め、二人組に言ってやりました。
「兄ちゃんら、いきなり青い目の外人さんにそんなこというたらビビリはるやろ・・」
するとカレーうどんの兄ちゃんが、またもや外人さんの顔をのぞき込み、
「ほんまや、眼ぇ青いな・・。わしの眼ぇ見てみ。
わしの眼は黄色いやろ。・・な。」
おっさん、そら違う病気やろ。
そうそう病気といえば・・・