手術後頃の手記と記憶より、ちょっとだけ物語風に書いてみた。メモ砂時計ダウン

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

手術から5日目、胸から垂れ下がってたリンパ液排出のためのドレーンと弁当箱のようなタンクも早々と取れた。(この頃、痩せてて脂肪が少ないから回復が早かった。長い人だと2週間くらい付けてる人がいるらしい)

翌日、外泊届け提出。こ~んな消毒の匂いで充満した壁もベッドもどこもかしこも白い辛気臭い場所は私には似合わない。

基本、お気楽人間の私でさえ、時々、このひんやりとした雰囲気に呑まれそうになる時がある。

だけど、この左腕の重さ、だるさ、下に降ろせば、だる痛いし、上げれば腕の重さで上げられるのはたったの3秒で限界。そりゃ、脇の下のリンパ節をとったらこうなるって手術前に説明は受けてたけど、こんなに不自由だなんて・・・。聞いてないぞ。想像以上だあ。

こんな不自由な左腕でどうやって家まで帰ろう。しばし、家まで1時間の道のりをシミュレーション。ま、左腕だけだから右腕さえあればなんとか運転は出来そうだけど、曲がり角はやっぱ、両手じゃないと危ないかなあ・・。う~~ん、ま、なんとかなるか・・・。と、お気楽に考えていたら、「真剣な顔して何考えてるの?またよからぬことたくらんでるんでしょ。」と、友達のくみちゃんとあやちゃんが、病室の入り口から、ひょこっと顔を覗かせた。

「人聞きの悪いこと言わないでよぉ、今日であの鬱陶しいドレーンも取れたことだし、ちょいと車で家に帰ろうかなあって思ってたとこよ。」

「はあ?」とくみちゃんとあやちゃんが呆れ顔で、「何言ってんのよ。手術してまだ6日目だよ。全身麻酔して体だって弱ってるんだから、止めたほうがいいよ。主治医の先生はなんて言ってるの?」「え?先生?まだ聞いてないよ。」

2人はますます呆れ顔で「まず、そっちが先です!!」と同時に口を揃えて言い放った。

あんたたちって双子だったっけ?

主治医の先生は結構何でもOKの人で、「ま、無理しなかったらいいよ。」とあっさり外泊のOKが出た。でもまさかこの腕で私が車の運転をして帰るつもりだなんて先生だって思いもしてないだろうな・・。

と思ったが、そのことはあえて言わなかった。


くみちゃんとあやちゃんに「OKだったヨン」とピースサインで報告したら疑い深げな顔で「本当でしょうね。あんたってこうと思ったら嘘ついてでも無茶する人だからなあ。ま、いいわ。でも、とりあえず今日の帰りは私が乗せて帰ってあげるわ。あんたの車はあやちゃんが運転してったげるから。」

「ほんと?やった。本当はちょっと心配だったんよ。左腕はもちろんだけど、体もちょっとまだしゃきっとしてなくって歩くとしんどいし、大丈夫かなって思ってたんよ。あ~よかったあ」

くみちゃんとあやちゃんは二人顔を見合わせて、外人のようなジェスチャーで呆れ顔で首を横に振っていた。

 

 

久々に我が家に帰ってみるとビールの空き缶がなんじゃこりゃ?ってびっくりするくらいずら~っとテーブルの上に並んでいた。


私が入院してることをいいことに鬼の居ぬまに何とやらでだんなは一人の時間を堪能していたらしい。こっちはしんどい思いしてたって言うのにいい気なもんだ。

ま、不本意だとしても、病気して入院までしてしまった私にも負い目はあるからこれっくらい目を瞑るとしよう。

でも、びっくりするだろうなあ。なんて言ったって手術してまだ6日目だからね。こんなに早く一時外泊するとは思ってないだろうし・・。どんな反応するかなあ。いつも10時くらいじゃないと仕事から帰って来ないけど、心配して飛んで帰ってきたりして・・。

な~んてわくわくしながら、夜の7時くらいにだんなの携帯に電話してみた。

「もしもし、私だけど・・、今、一時外泊の許可もらって家に帰ってきてるんよ。」

「へ~、そうなんだ。悪いけどさ、今日、飲み会なんよ。だから、先寝てていいよ。じゃあね。」と私の期待を見事に裏切って無情にもあっさりすっぱり電話は切れてしまった。

「・・・・・・・・・・」うそ。ガーンじゃあねって・・、じゃあねって・・?それだけ?

手術後、はじめて我が家に帰って来てるんだよぉ。もっとこう、優しい言葉ってあってもいいんじゃないのぉ?そりゃ、びっくりさせようとして前もって言ってなかった私が悪い。でも、ちとあんまりでないかい?ま、会社の飲みなら仕方がないか・・。付き合いも仕事のうちって言うしね。だんなの給料でこうして入院もさせてもらってるわけだし。久々に私が家に帰って来てるっていうことよりも大事だわね。うん、そうよ。男の人にとって付き合いも仕事のうちだもんね。と何度もつぶやいて無理やり自分を納得させた。

何だかどっと疲れが出てきた。そう言えば頭痛もするし、やっぱり、無理しすぎたかな。早く寝ちゃおうっと。





朝、「ねえねえ」というだんなの声で目覚めた。

私は目も開けず、寝ぼけた声で「なあにぃ?」と聞いた。

すると思いもかけない言葉をだんなは私に言うではないか。

「病院から車で帰ってきてるんだね。じゃあさ、昨日酒飲んでたから、会社に車置いて電車で帰ってきたんよ。だからさ、車がないんよ。お願い駅まで送ってって。」

え~~~!!うそでしょぉ?本気で言ってるの?この間、手術後に病院に来たときに、腕がだるくて痛くてちっともいう事利かないって、私、散々ぼやいたはずだよ。その私に運転してくれって?私のぼやき聞いてなかったの?友達のくみちゃんとあやちゃんでさえなるべく運転はしないほうがいいって言って、車を運んでくれたって言うのに・・・。

「え~~っ」と嫌そうに私が言ったら、すかさず、私の前で手を合わせて「おねが~い。」と甘えた声を出す。

ここまでお願い攻撃をされると基本的に人のいい私は断れなくなってしまって、渋々服を着替えることにした。脇のリンパ節を取っているせいで服の袖に腕を通すのも脂汗が出るほど痛くて時間がかかってしまう。だんなは「車で待ってるね」と言って先に家を出てしまった。

はは~ん、先にエンジンをかけてすぐ発車できるようにしておくって寸法ね。なかなか、段取りいいじゃない。

やっとの思いで服を着替えて外に出てみてびっくり!!

なんとだんなはちゃっかり助手席側に乗り込んでいるではないか。これまで飲み会で車を会社に置いてきただんなのために、翌朝に駅まで何度も送ってきてたけど、こんなときだもの、てっきり行きの時くらい自分で運転していってくれるものだと思い込んでた私が甘かった?

はいはい、これまで通り、行きも運転しますよ。すればいいんでしょ。想定外のこの状況を目の前に、半ば、投げやりになってきた。

これ見よがしにハンドルを握った。ひ~ん、朝一で血行が悪いせいかすごく痛いよ。左腕上がらないよ。思うように動かない腕のせいで曲がり角で車がふらつく。でも、意固地になってた私は何も言わず、駅まで送り届けた。

「ありがとね。じゃ、気をつけてね。」

だんなはそう言い残し駅へと消えていった。(@ ̄Д ̄@;)