J side



「・・・っ、待ってくださいっ!

確かに、僕に覚悟が足りなかったのかもしれません。

それなら今すぐに番になれなくてもいい・・・、時間がかかっても必ず何とかしてみせるから

それまでどうか、どうか傍に置いてください。

翔さんの近くに・・・今までみたいに、

秘書としてだけでも!」



二人の間に空いた距離を無くす様に

しがみつこうとした僕の手を



「ダメだ。」



翔さんはグッと掴んでそこに留めた。




「どうして・・・?僕、馴れ馴れしくしません。秘書としてちゃんと弁えて上手くやりますから・・・っ!」



そんな

プライドなんてとっくに投げ捨てた

僕の必死な訴えが

翔さんの意思を変える事はなくて



「俺は、お前の為になら何だってしてやりたい・・・、何を失う事だって惜しくない。

ただ、お前を苦しめる事だけはしたくないんだ。

秘書としてだって傍に置いたら、二宮さんと俺の狭間で、またお前に辛い思いをさせる事になる・・・、必ず俺が潤を欲しくなってしまって、歯止めがきかなくなる。


いくら表面上で、仕事だけの関係だと取り繕ってみても、俺達の繋がりは隠しきれるものじゃないんだ。」





そうだよ。



翔さんを見てるだけで、貴方をこんなにも欲しいと細胞レベルで渇望していて。



番にしてくれると言うのなら、今この時だって

その足元に跪き、靴先に口づけし

翔さんだけへの愛と貞操を誓いたいと切望している。



翔さんの近くにいると

今まで知ってた僕は誰だったのかと思うくらい

本能と欲望が剥き出しの、理性なんて何の意味も持たない僕になる。



どれほど周りを騙し、自分を欺こうとしても

翔さんを感じたら、ヒートじゃない時だって

この血が騒いで、身体は熱を帯び始める。



貴方は僕にとって

それだけ特別で絶対的な存在。





「そんな事、潤もわかってるだろ?」





・・・わかってる。




結ばれないのに傍に居たら

お互いが辛くなるだけだって事ぐらい。




「お前が俺の秘書じゃなくなっても

二人が番として傍にいられなくても

俺の心の中に、潤の居場所はずっとある。

忘れるな、俺の運命の番はお前だけだ。」




わかってるよ。




他の誰にも代わりがきかない僕らだから

いっそ遠く離れてしまった方が

いいって結論に辿り着いた翔さんの

一見突き放すような愛情も。




「だからもう泣くな。」




ちゃんと、わかってる。



翔さんにだってこれが

心が張り裂けそうな程

苦しい選択だって事も。




だけど・・・



この溢れ出す涙みたいに

僕の翔さんへの愛は

あなたを求める心は

誰にだって、僕にだって

止める術はなくて

止められなくて



「どうしても・・・、離れないとダメですか?」

「・・・ダメだ。」

「僕は、それでも傍にいたいです。

お願いです、考え直してください。

翔さんを失うくらいなら、どんなに耐え難い苦難だって、それがどんな苦痛を伴うものだって僕は・・・っ」



諦めきれず、最後の望みを掛けて縋り付く僕を



「くどい!」



翔さんは一蹴して

αとして、社長として

威厳ある声を低く響かせた。



「松本には秘書室からの異動を命じる。何処に異動になるかは大野室長から追って連絡させる。それまでは自宅待機していろ、出社する必要もない。」

「そんなっ」

「これは社長命令だ。」

「・・・っ!、・・・・・・はい。」




翔さんは狡い。




僕が社長命令って言葉に逆らえない事を知っていて、わざとそんな言い方をする。





「それと、抑制剤は必ず早めに飲むこと。」





翔さんは狡い。




「もう、何かあっても俺がどうにかしてやれなくなるんだから・・・」

「翔さん・・・」




狡くて

どこまでも優しくて




「これからは、自分の身は自分で守れ・・・いいな?」




泣きそうな瞳で微笑んで見せる

誰より愛おしい

僕のたった一人の運命の番。




あなたの凛々しいスーツ姿が好きでした。


仕事に向かう真剣な横顔も

そこに居るだけで辺り一面を照らすような

キラキラしたオーラも


僕を呼ぶ声も

抱き合った時の汗の香りも

心地よい体温も

強さと儚さの両面が見え隠れする所も


愛する者の為ならどんな痛みも

一身に引き受けようとする

憎らしいほどの意志の強ささえ



翔さんの全てが好きでした。



好きで好きで

こんなにも好きで




「俺のためにも二宮さんと幸せになってくれ。」



あなたが最後に放った言葉すら

僕にくれた宝物のひとつに思えるほど



あなたは僕の全てでした。






※長くて上げられなかったから2つに分けました。

こんなノロいのにメッセージとか( ̄^ ̄゜)ナンテヤサシイコ

ありがとうー♡ちゃんと読ませて貰ってます!