J side





カズ・・・?




『潤君、泣かないで』

『・・・僕が潤君を守るから。絶対、絶対に大丈夫だから。』




何かあれば僕をいつも慰めてくれて

ずっと大切にしてくれた。

僕を守ろうと懸命に支えてくれて

自分の事なんて

どうでもいいみたいに後回しで



そんな優しいカズの

だけど

寂しそうな笑顔が目の前に浮かんだ瞬間

胸がズキッと痛くなって

息が苦しくなって

直ぐには言葉が出なかった。




翔さんには

どうやっても抗えないほどもう

僕の全てが翔さんで埋め尽くされていて

身も心も彼なしでは生きられそうにない。



こんなに誰かを深く激しく愛する事は

今までもこれからも、二度とないって

番の本能からも僕は知ってる。




だけど、だからと言って

僕の身勝手な思いでカズを切り捨てる事に

一切の躊躇いや罪悪感を持たないかと言えば・・・当然それは嘘になる。



愛だ、運命の番だと

耳障りのいい綺麗事を並べたって

結局のところ


カズを裏切り、自分だけが幸せになるというエゴイズムな選択に、僕は一生後ろめたさを感じ続けるに違いない。


翔さんと共に過す毎日の一コマ一コマに

喜びを感じると同時に、良心の呵責にも苛まれるんだろう。



幸せであればある程、強く。






・・・それがどうしたって言うんだ。




それ程の罪を犯 すんだ。

その痛みは僕が受けるべき当然の胸を打つ杭であり、それが与えられた罰なのだと言うのなら

幾らだって耐えてみせる。



僕自身への物なら

どれだけでも。




そんな事より僕の脳裏をかすめたのは・・・



カズに別れを告げたなら

彼は一体、この先何のために仕事を続け

生きていくのだろうか?



僕の為、それだけを理由に今の仕事を選び

僕の為に、ずっと寝る間も惜しみ、食事するのも忘れるくらい研究を続けてくれていたのに

・・・



"潤君""潤君"って

何だって、いつだって

僕の事ばかりのカズだった。




『とにかく潤君ファーストが、俺の日々の達成目標だから。』


『でも勘違いしないでね、負担になんて少しもなってないよ?

俺、潤君以外に興味も執着も全くないの。

勝手に好きにやらせて貰ってるからさ、潤君は傍に居てくれたらそれでいいんだ。

潤君がいなきゃ俺、抜け殻のニートみたいになってそうだもん。』



自惚れなんかじゃなく

カズには僕が全てだった。




そんなカズを

・・・僕は、これから捨てるんだ。





「・・・っ、」



そうなんだ。



カズと別れが意味するものは、今までの彼だけじゃなく、これからの彼の人生も、台無しにしてしまうかもしれないと言う事で




理解していたはずの

選んだ道のその先の現実に

今まで流していた涙とは違う感情が溢れてくる。



独り善がりな罪悪感なんかよりもずっと

自分の犯 そうとしている罪の大きさに

怖くなって押しつぶされそうになっていると




「わかっただろ?

ずっと寄り添うように生きて来た二宮さんと別れるなんて、簡単じゃないんだよ。」

「違っ・・・、」

「それに・・・、そんな事が本当にできるお前なら俺はここまで愛していない。」



翔さんはそれでいいんだと言うかのように

僕の背中を撫でてから、そっと身体を離した。