J side
「翔・・・くん・・・」
会いたくて会いたくて
夢にまで見た翔くんがそこに立っていた。
カランカランッ・・・
驚きのあまり僕は、ついていた松葉杖を手放していて
「あぶねっ!大丈夫か?」
会いたい気持ちが見せた幻なんじゃないか
早く捕まえないと消えちゃうんじゃないかって
足首を骨折してる事なんて忘れて翔くんに向かって駆け出そうとして、転びかけた僕を翔くんが抱き止めてくれた。
「翔くんっ、何でここに・・・」
「それよりお前その足どうしたの・・・?
いいや、まずどこかに座ろう?立ったままだと辛いだろ?」
「・・・じゃあ僕の家に入って。」
久しぶりに会えた翔くんとゆっくり話がしたい
少しでも長く、近くで・・・
そう思って僕の部屋へと二人で向かった。
「で・・・どうしたんだよ、その怪我。事故にでもあったのか?」
僕が椅子に座るのを見計らったかのようなタイミングで、翔くんが待ちきれないとばかりに口を開く。
「違うよ、ちょっと考え事してたら家の階段を踏み外して骨折しちゃったんだ。」
「階段で?・・・いつやったんだよ」
「2週間位前かなぁ。夏休みに入る直前だったから」
「夏休み前・・・」
「それより翔くんこそ一体どうしたの?何かあった?」
心配気な表情が安堵に変わり、それからまた何か考え事をするような面持ちへとコロコロ変化する翔くんの顔が可愛いなって、口元を綻ばせながら見てると
「笑ってんじゃねぇよ」
途端に翔くんは不機嫌そうな顔つきになった。
「ふふっ、ごめん。翔くんが大好きだなぁってニヤついちゃった。
夢には出てきてくれたけど、やっぱり実物に会えた方がずっと嬉しいよ。」
会って早々、好きとか口にしちゃうのは重いかなって思ったけど、正直なのが僕の性格で
愛おしい気持ちで胸がいっぱいで堪えられなかった。
「お前・・・」
僕と、僕から目を外し俯く翔くんとの間に
少しの沈黙が流れた。
あれ・・・?
やっぱり嫌だったのかな・・・、こんないきなりまた好きって言われても困る?
もしかしてっ、今回来た理由って、僕に取ってとんでもなく嫌な何かがあってとかじゃないよね?
「翔くん・・・?あ、もしかして中居亭に連泊する計画とかカズから聞いたの?
翔くんにもう来るなって言われてたのに、また行こうとしてたから止めに来たとか?
こんな事になっちゃったから計画が狂ってまだ行けそうにないけど、来るなって言われても僕は行くからね!
翔くんに宣言した事、まだ少しも諦めてないから!」
段々不安が募り出し、聞かれてもいないのに
僕の計画を打ち明けるように早口で巻くし立てれば
「・・・遅せぇよ」
「え?」
「来んのが遅せぇんだよ!」
僕の頭を抱えるかのように、翔くんに強く抱き締められていて
「お前、毎年俺んとこ来るんじゃなかったの?
あの時、拓哉さんにもそう啖呵切ってただろ?
それなのに・・・
いつまでたっても来そうにないから
迎えに来た。
潤が俺をあそこから連れ出してくれるんだろ?」
耳元で切なげな翔くんの声が響く。
僕が行くのを待っていてくれたの?
迎えに来てくれた・・・僕を・・・?
「潤がいなくなってからも潤の言葉が、潤の事がずっと頭から離れなかった。
拓哉さんも、もういいから俺は大丈夫だからって背中を押してくれた。
それでも、拓哉さんと兄貴を引き離した原因の俺だけが、幸せになっていいのかってすぐには決断できなかった。
だけどさ、先月兄貴が戻ってきたんだ。
拓哉さんが店を臨時休業にする度に、また兄貴を探し歩いて、見つけ出したんだ。
あの二人も色々あったけど、今は仲良くまた一緒に働いてるよ。
だから何の心配もなくなった。」
「遼さんが?帰って来たの?」
「ああ、何年ぶりになるんだか、やっとな。拓哉さんも昔みたいに明るくなってさ。俺の自慢で憧れだった拓哉さんと兄貴は、こうやって並んでなきゃダメなんだってよくわかったよ。」
木村さんも遼さんを諦めず、愛する人を再びその手に取り戻して、止まっていた時が流れ始めたんだ。
良かった・・・、本当に良かった。
「それでも、俺はお前を巻き込みたくなくて二度と来るなって言ってあったし、素直じゃないから、直ぐには動けなくて・・・。
潤が来る夏まで待とうって思ってたんだ。
待って待って
会いたくて待ち侘びて
大嫌いだった夏がこんなに待ち遠しい季節になっている自分の変化に驚いたよ。
それなのに、夏になって二宮は来たのに
お前はいつまで経っても来なくて
もう会えないのか
もう俺の事は諦めたのか
もう他に誰か出来たのかって
じっとしていられなかった。
進むはずがないと思って諦めていた俺の時間が
お前と出会ったあの夏から
どうやら、また動き始めてたみたいだ。」
抱き締めていた腕を緩め僕に視線を合わせると、今まで見た中で最高に爽やかな笑顔を浮かべた翔くんが、こう言った。
「だからさ、潤・・・責任とってよ?
夏だけじゃなく秋も冬も春も・・・俺と一緒に居てよ。
お前がいてくんなきゃ、何もはじまんねぇんだから。」
部屋の外では
茹だる様な暑さ
ギラギラと照りつける太陽
ミンミンと喧しく鳴く蝉の声が
例年通り夏を演出している。
だけど
僕と翔くんにとって今年の夏は
今までのどの夏より比べ物にならない程に
大切な季節へと変わった。