S side



その日の俺は、
兎角イラついていて機嫌が悪かった。

一緒に住み始めた潤が、数日ぶりに海外の仕事から帰国する日。本来なら待ち遠しくて楽しみなはずなのに、潤のスケジュールは家に帰り荷物を入れ替えたら、今度は地方ロケへと向かう事になっていて。

少しでも早く帰宅して
僅かでも二人きりの甘い時間を過ごしたいね

なんて潤とは話していて、俺もその気だった。

なのに、結局なんだかんだと大幅に予定の時間は過ぎていき、潤が帰ってきた頃には、本当に着替えを準備するくらいの時間しか残っていなかった。


「翔くん、ちゃんと冷凍庫のストック温めてご飯食べてくれてた?」
「あー、もうコップこんなに並べて。
使ったらその都度洗わなきゃ駄目だよ」
「翔くん、聞いてる?」

「・・・・・・」

帰ってきて、準備を進めつつ潤は
同時に細々片付けもしながら話しかけてくる。

メシなんてどうでもいいんだ。
洗い物なんてどうでもいいんだよ。

俺は潤が帰ってくるのを楽しみにしてたんだよ。
疲れてるとこ悪いけど、せめて1回くらいは
潤を堪能できるんじゃないかって期待してたのに。

またお預けかよ。

潤不足が続いて、更にまた数日潤と会えないかと思うと自分でもイラつきが抑えられなかった。

「もう、時間だろ?
そんな事いいから行くぞ。エレベーターまで送ってくわ。」

「良くないよ。ちゃんと食べてくれないと翔くん、お酒ばっかりになっちゃうんだから。」

「うるせーよ。そう思うならもっと早く帰ってこれば良かっただろ?」

「だって、それは仕事で・・・」

「分かってるよ!もうごちゃごちゃうるせーな。早く行くぞ」

潤が悪い訳じゃないのに、八つ当たりの言葉しか浮かんでこなくて機嫌の悪さMAXのまま、
潤の拘りの色んなグッズが入ったスーツケースを手に先にエレベーターへと向かった。

だけど、暫くしても潤は部屋から出て来なくて
何だよ、きつい事言ったから拗ねてんのかよ、面倒くせーな。なんて思いながら部屋に戻る。

「おい、潤!まだかよ・・・っ」

声を荒げながら部屋に入れば、潤は俺が飲んだまま放ってあった散乱したペットボトルを片付けていて。

「あ、ごめんね翔くん。
僕気になっちゃって。また数日戻れないから少しでも片付けしておきたくて。
翔くん忙しくてやってらんないもん。
コップも洗っておいたから、これでまた暫くは何個か汚しても大丈夫だよ。」

疲れて帰ってきたのに、潤が居ない間に俺によって
すっかり散らかされた部屋を手早く綺麗にしていた。

「ああ・・・」

「口煩く言ってごめんね?僕心配しすぎだよね。
よし、じゃあ行こうかな。」

そう言って微笑むと、潤はまた仕事へ向かった。


思えばこの時だって、わざわざ帰って来なくて良かったんだ。帰国してそのまま次のロケへ向かう方が潤だって面倒じゃないはずなのに。僅かな時間でも俺の顔を見に帰ってきてくれたんだ。

ヘロヘロに疲れているはずなのに、片付けが苦手な俺の為にゴミを片付け、洗い物をして、俺がちゃんと食べてるかまで心配してくれていた。

だけど、今更謝るなんて格好悪くて俺にはできなくて、それでも心の中で、ずっとこの事がひっかかってた。


だから、番組の対決に負けた時、これは俺の気持ちを、感謝を伝えるチャンスだなって思ったんだ。


〈この間、うちに来たとき、帰り送ろうとエレベーターまでいきました。〉

〈あなたは、なかなか出てくることがありませんでした。〉

〈おかしいと思って家へ戻ると
あなたはペットボトルのごみを片付けてくれていました。〉

〈僕の部屋を綺麗にしてくれてありがとう。〉


いきなりの俺の発言に、君は照れ臭そうに
どうして今そんな話するの?って顔して俺を見ていたけど、ずっと言いたかった。


あの時、素直に言えなくてごめん。

君の優しさに甘えてばかりいてごめん。

君の事になると、余裕がなくて機嫌悪くなってごめん。

こんなに手が掛かる恋人でごめん。

だけど君のいない人生はもう、俺には考えられなくて君が居てくれるから毎日が色鮮やかに見えるんだ。

いつも俺を愛してくれてありがとう。



「翔くん、またそれ観てるの?」

ソファで寛ぎながら、そんな事を思い出しながら録画してある番組を見返していると潤が俺の横に座り、肩に頭を凭れかけた。
今日は甘えん坊モードなんだなって思いながら、潤の髪を撫でてやると嬉しそうにうふふって君は笑った。

「ん?この時の照れてる潤が可愛いなぁって思ってさ」

「だって、びっくりしたんだもん。テレビ観てる人に、僕達の事バレちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしたんだよ」

そう言って恥ずかしそうに、少しだけ頬っぺを膨らませる。

「俺は別にバレたって構わないんだけど。」

そうすれば、潤は俺のモノだって他のやつらに知らしめる事が出来るんだから。

「翔くん・・・」

嬉しそうに、だけど半分哀しそうに俺を見つめる君。

わかってるよ、そんな簡単な事じゃないもんな?


「潤?」

「なあに?」

「これからも部屋の片付け頼んだぞ」

「何それ!たまには翔くんも片付けてよね!」

「俺の相手も面倒臭がらずに頼むわ」

「どうしたの?」

「・・・いつもありがとう。愛してる」

「翔くん・・・嬉しいけど、何?急に・・・」

「いいんだよ、今は俺の中で愛する人に感謝を伝える運動が活発な時なんだよ。」

「何それ、ウケる」

「ウケんなよっ」

そう言って潤をソファに倒して唇を塞げば

「僕の方が愛してる。」

君は吐息混じりに囁いて、俺の唇に噛み付いた。


やっぱり君にはかなわない。

可愛くて、妖艶で、カッコよくて、スマートで、真面目で、ストイックで、優しくて。

君を知れば知るほど、俺は君に夢中になっていく。
だけど、そんな君に愛される俺は
そんな君にごみの片付けまでして貰える俺は
世界一、いや宇宙一、幸せな男なんじゃないかって
そう思うよ。

そんな君が近くに居てくれたら 
どんな事だって頑張れる・・・そんな気がする。


「潤、明日は早いの?」

「ううん、午後までオフだよ」

「じゃあ今夜はフルコースだな。大丈夫、潤がいれば俺、頑張れる。」

「何言ってんの・・・」




おわり。


何となく急に書きたくなりました。
Sちゃん、少し前に話してた事これでどう?
スッキリしてくれたら嬉しいなデレデレ


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