S side



(・・・やっぱり綺麗だな。)


(うわっ、笑うとすげぇ可愛いじゃん!//)


(ちっ。あのヤロー、馴れ馴れしく話しかけてんじゃねぇよ!)


カフェには勉強目的で通っていたはずなのに、気づけばいつも、その美しい人を目で追っていた。

話した事もない誰かに心を奪われる・・・こんな事は俺史上初めてで、もしかしてこれって、ストーカーになっちゃうパターンじゃねぇよな?!って少し心配になる。

それに、こんなにコソコソ見てるのを気付かれたら気持ち悪がられるだろ・・・

想像しただけで・・・軽く凹んだ。
それだけは避けたい。

俺はかぶりを振って、邪心を払い

『集中、集中!』

開かれたまま手付かずだった参考書に向かう。


暫く没頭していると、俺の横に人が立つ気配を感じ

『良かったらコーヒーのお代わりどうですか?
いつも来ていただいているので、マスターからのほんの気持ちです。』

仕事とは言え、はじめて長めに←  
彼から話しかけられ、心臓が激しく踊り出すようなドキドキを抑えながら

『ありがとう。いただきます。』

本から目を上げ、平然を装い彼に微笑んだ。
ポーカーフェイスは割と得意なんだ。

それをきっかけに、少しづつ2人の間の会話も増えていったけど、同じ大学だと知った時は驚いた。


『あれ・・・もしかして・・・?』

大学の図書館で勉強をしていると、同じく教科書なんかを持った彼に声を掛けられ、

『あ・・・!えーっと・・・』

『松本です。松本潤です。』

『松本・・・くん。俺は櫻井翔。って、大学ここなの?』

『はい、経済学部一年です。櫻井さんは?』

『俺は法学部三年。凄い奇遇だね。』

まさかの幸運に、ニヤけそうになる顔を引き締めながら、この時、彼の名前を初めて知る。
いや、マスターに松本君って呼ばれていたのを聞いていたから、実は上の名前は知ってたけど。

潤か・・・。美しく潤沢な瞳を持ったこの人に、ピッタリな名前だなって思った。


後日更に、この時の俺と潤が話してる姿を目撃したブッキーから、噂の超絶イケメン1年生がイコール潤の事だったと知らされ納得した。
そりゃ潤Lvになれば皆が騒ぐはずだよな・・・何故だか少し得意気な俺。
まだ潤とは、知り合いに毛が生えた程度の関係なくせに。


『まさか翔が、かの噂の超絶イケメン一年生君とお知り合いだとはねぇ・・・。イケメンはイケメンを呼ぶって本当だな。』

『何だそれ、聞いた事ねぇわ。』

『現に俺と翔だって友達じゃん?ほれ、イケメンはイケメンを呼んでんだろ?』

『・・・そこはノーコメントで。』

『お前、マジでふざけんなよ?』


覚えてろよー!と謎の捨て台詞を残し、別の講義へ向かうブッキーを笑いながら見送っていると

『櫻井君・・・ちょっといい?』

『・・・うん?』

見掛けた事が数回あるだけの、同じ学部で恐らく2年生の女の子に呼ばれ、好きだから良ければ付き合って欲しいと告げられる。

『ありがとう。気持ちは嬉しいけど・・・ごめんね』

どうせここを卒業したら東京へ戻るんだ。
その時にゴタゴタするのも面倒だし、恋愛に淡白だった俺は学生の間は恋人を作る気はなかった。
好意を持たれる事は有難かったが、いつもこうして断っていた。

だけど・・・殆ど話した事のない俺の、一体どこを好きになったのだろう。
一体、俺の何をわかっているんだろう。
彼女の勝手に作り上げた俺と現実の俺とは
全く別人なのかもしれないのに。

そう考えた時、俺も同じなんだとハッとする。
もしかしたら、潤の事をもっと知れば
この想いも一時的なものだったと消えていくのかもしれない。
一気に膨れ上がった潤への想いに、慣れない感情に
戸惑いと畏れもあった俺は、もっと潤を知る必要がある、そう思った。

今思えば単純に、俺の知らない潤を知り尽くしたいという独占欲にも似た想いだったのだけれど、彼に近付きたい願望を自分自身に言い訳できる、都合のいい理由をつけていた。


それでも、潤との距離を縮めて行って、彼を知れば知るほど、俺はますます潤に惹かれて行った。
ストレートに言うならば、完全に好きになっていた

学食でもコンビニでも、会計時には必ず

『ありがとう』

とニコリと笑顔でお礼を言う礼儀正しいところ。


美味しいお店の話をすれば

『へぇ、そこって何処にあるの?
母さんと姉さんも喜びそうだから今度、連れて行こうかな。場所教えて?』

家族想いな優しいところ。


笑顔が可愛く礼儀正しくて、家族を大切にする子。
潤は外見だけでなく、中身も俺のタイプそのものだったんだ。


いよいよ、気持ちに誤魔化しが効かなくなる。

潤は、その芸術的な美しさ故、近寄り難いのか
軽はずみに言い寄られる事はなかったが
正直、誰かに持ってかれるんじゃないか・・・
気が気じゃなかった。

男同士の俺達。
俺はパンセクシャルだと自覚しているから
性別なんて関係ない。
潤が好きなのだから。
潤が男という属性をたまたま持っていただけだ。

だけど潤は?
こんな気持ちを受け入れられるだろうか。
俺の事をどう思っているんだろうか。

少なくとも嫌われていない自信はある。
俺に会うと嬉しそうだし、じっと見つめてみると
恥ずかしそうに目を伏せる。
距離を詰めて近寄れば、顔を赤らめて距離をとる。

俺を意識してくれているようにも見えるし
照れ屋なだけにも思えて。


何も出来ないまま、好きな想いだけが募っていた。
その日が来るまでは。