N side


だけどこの相葉雅紀と言う男、天然なのか鈍いのか
さすがミラクル相葉の異名を持つだけに一筋縄では行かなかった。

このニノちゃんがよ?
世界征服で連日忙しいニノちゃんがよ?
失恋の痛手を癒す為、頻繁に飲みに付き合い
酔い潰れた日には家まで運んでやり、この仔犬のような可愛いらしい瞳でうるうる見つめてやったのに何もしてきやしない。


嘘だろ?
このニノちゃんだぞ?
悪いけど相当可愛いと思うよ?


今日も飲んだくれ眠りに落ちた相葉さんを憮然と見ていると

「・・・潤ちゃ・・・ん・・・」

寝言で潤君の名前を呼んだ。

まあ・・・ね。
わかるよ、わかる。
あんなに好きだった潤君を簡単に忘れられっこない事ぐらい。
ペットが飼い主と会えなくなってもいつまでも慕うように、ペット並に純真なこの人の事だ。
そんな簡単に他になびく訳がない。


そういや、ワタシは柴犬に似てるって言われるけど
相葉さんはゴールデンレトリバーに似てるな。
大きくて黄金色の毛並みで優しくて人懐っこくて・・
今も寝ながらご主人様(潤君)を追いかけてる夢でも見てるのかな・・・




「・・・・・・ムカつく」


だんだん腹が立ってきた。
相葉さんの細いけど骨張った右手を持ちギュッと抓ってやる。


・・・・・・反応なし。


今度はパチンと手の甲を叩いてやる。


・・・・・・ぐうぐう寝てやがる。


「これくらいの刺激じゃあ起きないって事ね」


今度は顔にビンタでもして起こしてやろうかと思ったのに、普段こんなに触れた事がない手を放すのが惜しくて、そのまま両手で持って自分の頬に当てていた。

大きくて暖かい掌。
ふざけてじゃれ合う事は幾度とあったけど
そこには友情しかなくて。
恋人として触れて貰える日はくるのか
友人期間が長すぎてもう遅すぎたんだろうか・・・
ワタシらしくもなく焦りと不安に襲われる。

だけど掌が触れている顔の一部が
心地よい相葉さんの体温に包まれて
そこから相葉さんの優しさがワタシに流れ込んでくるようで・・・何故だろう、胸の真ん中が締め付けられて頬に一筋涙を流していた。


「・・・ん?・・・ニノ!どうしたの?!」


抓っても叩いても起きなかったくせに
人が涙を流してるとすぐ飛び起きるんだな。
自分の痛みには鈍感なくせに
人の悲しみには敏感で・・・

そういうとこがワタシには腹立たしくて
苛立って惹かれずにはいられないんだ。
暫くそのまま見つめあって


「どうもしないよ。」


握っていた手を放り出しそっぽを向く。


「ニノちゃん、最近おかしくない?
何かあったんじゃないの?」


心底心配そうに俺の顔を覗き込む相葉さん。
そんな優しさなんかいらない。
欲しいのはお前の心だ。
いい加減気づけよ、バカ。


「何でもないって。帰るわ・・・」


「待てって!気になるだろ!」

立ち上がろうとするとグイッと腕を掴まれ
バランスを崩し相葉さんの上に倒れこんだ。


「って!・・・何すんだよ」


「ご、ごめん!何処か打った?!大丈夫?ごめんね?!」


そう言いながら慌ててワタシの頭や腕なんかを擦る相葉さん。
・・・もう、これ以上優しくすんなや。
友情の優しさなんて辛いだけなんだよ。


「え?何?」


相葉さんの頭を引き寄せるように腕を回し至近距離で見つめる。


「いっ!いてっ!」


訳がわからず動揺する相葉さんの鼻に思い切り噛み付いてやった。


「じゃあな。おやすみ」


「え?ニノ?何なの?!ちょっと、ねぇ?!」


騒がしい彼を華麗にスルーして部屋を後にした。


本当はキスしてやろうかと思った。
でも出来なかった。
だって親友にいきなりキスされたら驚くでしょ。
あんな純粋無垢な彼を悩ませるような事はしたくない。それに悩んだってわかりゃしないんだよ、あの人にワタシの気持ちなんて。


だけど、至近距離で見た彼の瞳が一瞬だけ
色づき揺らめき、慌てて色を消したように見えたのはワタシの見間違いだったんだろうか。