S side




パトカーのサイレンがけたたましく鳴り響き

ホテル街へと消えて行く。


何か騒ぎでもあったのか?


とは言え、頭の中から潤の事が離れない今、

大して気にもとめず、ぼんやりとそちらを眺めていた。



3本目のタバコを吸い終わり、しばらくしても南田は戻ってこなかった。


遅いな・・・

何があったんだ?


連絡してみようかとスマホを手にすると、潤を抱き抱えた南田が車に戻ってきた。



「潤?!」



南田は後部座席のドアを開け、俺の隣に意識を失っている潤を横たわらせた。



「南田、一体何があった!

潤はどうしたんだ?!」



潤の青白い顔、ぐったりとした様子を見て声を荒らげてしまう。



「翔様、遅くなり申し訳ございません。

何があったかは・・・いくら翔様にでも私の口からは申し上げられません。

松本様ご自身の事ですので・・・。

ですが、もう大丈夫です。

問題は解決してまいりました。

まずはこのまま一旦ご実家に向かいます。

奥様が待っておられますので。」


「・・・っわかった。

だけど潤は、潤はどうするんだ?」


「今は薬で眠らされています。暫く意識は戻られないと思いますので、仕方ありません、私の家にお連れして目を覚まされるのを待とうかと思っています。」


「駄目だっ」



例え信頼を置いている南田とはいえ、意識を失っている潤が誰かの部屋に連れて行かれるのはどうしても我慢できない。

さっきみたいに潤が抱き抱えられ触れられるのも耐えられそうにない。

考えただけで腹の底がフツフツと煮えたぎってくる。



「俺の部屋に連れて行く。

実家には俺が断りの電話を入れておくから、このまま俺のマンションに向かってくれ。」


俺の返答を聞いた南田は


「わかりました。翔様のマンションへ向かいます。」


何故か満足そうに頷き車を発進させた。








部屋に着き、俺のベッドに潤を抱き運び、そっと布団をかける。


一体、何があったんだ。

あの男は誰だ?

何故、接点がなかったはずの南田が潤を知っているんだ?

疑問ばかりで訳がわからず頭を抱える。



ふと、眠り続ける潤の寝顔が視界に入り

そのあどけなさが可愛らしくて頬が緩む。

あんなイケメンなのに寝顔は幼くなるんだな・・・そう思った時、また激しい頭痛に襲われ

今と同じ潤の寝顔の映像がフラッシュバックのように頭の中に現れる。





俺は以前もこのベッドで

潤の寝顔を・・・見た?


いつだ?

この映像は何だ?

潤が何故俺のベッドに・・・。


「うぅっ・・・」


記憶の迷路の出口がすぐそこまで見えてきたのに

あまりの頭の痛みに思考が停止し

床に蹲り、肩でハアハアと息をする。

暫くそのまま、頭痛が治まるまでやり過ごしていると





「翔・・・くん、・・・翔くん!」



寝ているはずの潤が俺を呼んだ。



「どうした?大丈夫か?!」



ベッドに近寄ると、まだ意識が朦朧としているのかうつろな瞳をした潤が俺を視線に捕え



「翔くん・・・」



俺に向かって手を差し出す。



「・・・なに?」



甘えたような仕草にドキリとし、戸惑いながらどうしたのかと更に近づくと潤が泣きながら俺に抱きついてきた。



「翔くん・・・、僕は・・・穢れてる・・・」



「潤?」



「やっぱり暗闇からは抜け出せないんだ・・・っ

僕はいつまでもこのまま穢れたままなんだ・・・」



「潤・・・そんな事はないよ。

何があったか今は聞かない・・・だけどお前ほど身も心も綺麗な人間を俺は見た事がない。お前は例え何があったって穢れたりなんかしない。俺が保証する。



「・・・翔くん・・・翔くん・・・」



「大丈夫・・・大丈夫だよ、潤」



泣きながら縋るように俺の名を呼ぶ姿は儚くて

潤への愛おしさが溢れ

潤の頬に手を当て親指で涙を拭う。




「翔くん・・・、

会い・・・たかった・・・」



「・・・潤っ」



「翔くん・・・お願い・・・

一度・・・一度だけ・・・僕を抱いてください・・・」



泣きながら俺を求め

切なげに俺を見つめ

仮初めな懇願をする潤に


俺の理性という名のストッパーは完全に崩壊し

代わりに欲望にも似た激情に突き動かされる


潤をこの腕に強く抱きしめ



「潤・・・潤っ・・・一度だけなんてそんな悲しい事を言うな!俺は潤がっ・・・」



「翔くん、・・・それ以上は言わないで・・・」



俺の言葉を潤の唇が塞いで、すぐに深い口づけへと変わる。




潤、ずっとお前が欲しかった

俺はお前が好きだよ


抜け落ちた記憶にどんな答えがあろうと

確かに今、俺はお前が好きなんだ。



言わせて貰えない言葉を胸に

欲しくて仕方なかった潤の全身を余す所なく口づけた。

お前は穢れてなどいないと分からせる為に。

お前の全てが愛おしくて堪らないと知らせる為に。


潤は時折甘い声を上げながらも涙を流し続け


「翔くん、翔くん・・・」


まるで、もうこの先呼ぶ事がないかのように

ひたすらに俺の名前を呼ぶ。



その声に応えるように俺は潤の中へ俺を送り続け

何度も求め合い愛し合った。