<認知症行方不明>大阪駅に近い中心部で74歳女性“蒸発”

毎日新聞 6月25日(水)7時15分配信

 認知症で行方不明になる人が相次いでいる問題で、人通りの絶えない都会の真ん中でも誰にも気づかれずに行方が分からなくなる事態が起きている。JR大阪駅からほど近い中心部に暮らしていた認知症の女性(74)が3月末、突然いなくなった。事件に巻き込まれた可能性も考慮して警察の捜査部門も動いたが、手がかりはない。「こんなに人がたくさんいる中で見つからないなんて」。家族は悲痛な思いで帰りを待ち続けている。【山田泰蔵、銭場裕司】
女性は大阪市北区の佐藤美和子さん。昨年5月に認知症と診断され、スムーズな会話は難しくなっていたが、足腰は丈夫で日常生活にほぼ支障はなく、自宅マンションで1人暮らしをしていた。近くに住む30代の長女が孫と毎日のように訪れ夕食を共にするなど身内に支えられ、外出先で道に迷い保護されるようなことはなかった。
ところが3月27日に自宅を出た後、行方が分からなくなった。家族は警察に届け、行方や手がかりを捜した。
外出時の姿は同日午前9時20分ごろ、自宅マンションの防犯ビデオに映っていた。黒とピンクの横しま模様の長袖Tシャツに黒いダウンコート、ニット帽を身に着け、愛用のカバンを持っていた。数百メートル先の防犯ビデオにも同じ姿があったが、足取りはそこで途絶える。地下鉄に乗る際に使っていた敬老パスを調べると、その日は利用記録がなかった。
自宅カレンダーには先々の予定が書きこまれ、失踪する理由は見当たらない。大阪府警捜査1課も調べたが、事件に巻き込まれた形跡はなかった。美和子さんの認知症は言葉の意味を忘れるのが主な症状で道に迷うことはあまりないとされていた。長女は「帰宅はできると思っていた。気付けなくてごめん」と自責の念を募らせる。
「人の役に立ちたい」と経理職を退いた後も10年以上にわたり老人ホームを訪問するなどのボランティアを続けてきた美和子さん。長女はいつ戻ってもいいようにと母が大事にしていた鉢植えへの水やりを欠かさない。
6月21日、美和子さんは74回目の誕生日を迎えた。長女は母の写真に向かい、孫2人とバースデーソングを歌った。「どこかで聞いてくれているよ」。そう語り合いながらも切なくなる。「一緒にお祝いしたかった」。今はただ母の体をしっかりと抱きしめて、そのぬくもりを感じたい。
美和子さんは身長145センチ、体重40キロ程度。金色の釈迦(しゃか)座像のペンダントをしていたとみられる。情報提供は大阪府警天満署(06・6363・1234)へ。