由宇子の天秤
ユーロスペースでしか上映していなかった「由宇子の天秤」が、日比谷シャンテでも上映していることを知る。TOHOで安く観られる日に時間を調整して見に行った。「売れっ子」俳優は出ておらず、主人公由宇子を務めたのは、「大豆田十和子と三人の夫」などに出演していた瀧内公美さん。父親役に様々なドラマなどで活躍している光石研さん。その他のキャストはほとんどが、監督の春本雄二郎さんのワークショップに参加した人の中から決められた方たちらしい。映画を見終わった私は、ものすごく気持ちが重たくなった。こんな怖いことはないと思ったのだ。由宇子は、ドキュメンタリーのディレクターとして、ある高校でおきた生徒と教師が自殺した事件の真相に迫るため、遺族への取材を進めていた。報道によって二人は自殺に追い込まれたという視点で制作を進めていた由宇子。そんな中、ある事件が由宇子の身に降りかかる。それは、自分の正義と生活や仕事、大切な人、どちらを守るべきなのか、取材していた事件への自分の視点とも大きく矛盾を抱えることとなり、揺れ続ける由宇子。映画は何が正しく、何が本当だったのか、答えを出さずに終わる。自分が正しいと思っていたことが、たった一つの出来事によって簡単に揺らいでしまう、生活や大切なものを守ることと天秤にかけて。それが私にはとても怖かった。いつ自分がその状況に置かれてもおかしくない。そんなとき、私は自分が正義と信じてきたものを貫くことができるだろうか。大切な家族や友人や生活を犠牲にしてでも。またこの作品は、教育とマスコミという多くの人が正しいと信じているものも、嘘を言うかもしれない、間違っているかもしれないという視点を観客に与えている。総選挙が始まったが、まさにこのことが問われていると思う。私たちは、教えられること、流されていることを鵜呑みにするのではなく、常に考え続け、問い続けなければいけないのだと思う。監督はこの作品が二作目。新人監督とは思えないほど物語のテンポもよく、セットにもかなりこだわりが見えて、見応えある作品だった。主演の滝内さんもよかったし、普段テレビなどでは見ない俳優さんたちも素晴らしかった。こういう作品が多くの人に届き、もっとたくさん上映されるようになるといいなと思う。ぜひ映画館でご鑑賞ください。