私が4年生のとき、
ハイティンク先生とカルロス・クライバーが、
offでお二人で、アムステルダムの喫茶店62番で
お茶しているのをお見かけした。
部屋友達の智子ちゃん(クレバース門下)と、晴子ちゃんも一緒だったので、
『なんか、ここに来ちゃいけない雰囲気?』
私たち3人は、ここでお茶するのを辞めて、オステルドックのお店まで歩いた。
◆◇◆◇
ハイティンク先生は、後に、
『アナタ達三人は、三人で、堂々と奥の席で飲んでいれば良いのに!カルロス君は僕の友達だから大丈夫だ。』
私:『ウィーン・アカデミーの美保ちゃんから聞いたんですが、カルロスさんは、ちょっとでもリハーサルの時に【指揮科の学生】がこそこそ見ていたりすると、怒って中止して帰っちゃう人だ、と、聞いたものですから…。』
ハイティンク:『こそこそ隠れて見られるの、僕だってイヤだなあ、でもカルロス君は僕の友達だから!』
私:『難しいお人柄?のように、聞いていたものですから、ごめんなさい。』
ハイティンク:『僕には、そうは映らないけど、ウィーン・アカデミーの指揮科の学生が、たまたまそういう時に遭遇しただけだよ。』
私:『はい。62番にあのまま私たちが居たら、
【こそこそ見にきた!】と思われたら、怖かったので…。』
ハイティンク:『他人の【カルロス像】を、鵜呑みにしては良くない。アナタ自身、【カルロス】を、きちんと知りなさい!』
私:『はい!!』
…美保はじめ、ウィーン・アカデミーから『カルロスは難しい』像を刷り込まれていたので、
私は、ものすごく反省した。
◇◆◇◆
だいぶ後に…
ゲル&ベル兄弟と私は、ルーマニアの【カルル・ク・ベレ】という料理屋に行った。
そこで、またハイティンク先生と、そのお友達の指揮者【カルロス君】と出くわした。
ゲル兄さんが、慌ててか、あるいは【ふざけて】か、
ガラスの真面目くんメガネを外して、黒メガネをかけようと、後ろ向きになった。
すると、
カルロス:『キミの姿は、遠くから見ても分かるよ!遠慮しないで、この席におかけなさい!』
ウィーンの人々は【カルロスを見たら逃げろ】という風習があるのか…、
ベルニィも逃げ腰だ。
ハイティンク先生と、子音きかせて、カルロス君はドイツ語で会話をしていたが、
突然、ルーマニア語でボーイさんを呼び、
カルロス:『5人がけのテーブルに移りたい!』
と、ラテン系っぽく言った。
…この人、いったい【なにじん?】【どこの国の人?】
カルロス君は、ドイツ人ばなれしているし、【どこの国の人?】っていう感じだった。
◆◇◆◇
ゲル兄さんは、お母さんがルーマニア語を話すので、
ルーマニア語で、後から来た私たち3人のお料理を頼んでくれた。
ベルニィは、カルロス君に会って話すのは、初めてなので、緊張していた。
ゲル兄さんが、
『弟の、ベルノルトです、アカハの外科医です。』
と紹介したら、
カルロス君は
『僕も、友達が医者でねえ、アカハには行かなくても、友達が医者でねえ、、、』
と、【友達が医者】を繰り返すので、最初は鼻についた。
でも、このカルロス君という人は、生粋の少年の心の持ち主で、お話しを聞いてる間に、
【僕も、僕も、キミと同じで、身近に医者が居るんだよ!】というのが、チラッと見えて…
私:『なんだぁ、難しいんじゃない、そっちだったのね、そっち!』
と、日本語で言っていた。
ハイティンク先生と、カルロス君は、
ピアニストのミケランジェリさんを持ち出して、
『協奏曲に思い入れの強いピアニストがソロを担当した、協奏曲の指揮をするときに、ピアニストが曲全体を指揮するような出来になるから、難しい!』
というお話をなさっていた。
カルロス君は、
ハイティンク先生が【クラウディオ・アラウ】をソロに迎えて、成功させたので、どのようなリハーサルをしたのか、聞いてきた。
ハイティンク先生は、
そりゃあ、クラウディオ・アラウだって、【このピアノ協奏曲はこうだ!】という、指揮者以上の思い入れがあるので、
それを尊重して、【ピアニスト先導型】の指揮をし、だけど二楽章は僕のやり方で振らせてくれ!と、折半したらしい。
カルロス君×ミケランジェリの場合は、
どうも【ピアノ協奏曲全体】に【ミケランジェリの思い入れ】があり、折半には出来なかったらしい。
指揮者として、こう振りたい!のと、
ミケランジェリさんが【ピアノ・パート】を超えて【曲全体のことを言ってくる】のが、
噛み合わなくて、どうしょうもなかったらしい。
カルロスさんが語っている間、ずっとゲル兄さんは目を見て話を聞いていたが、
私は、【ピアノ・ソロ曲】ならまだしも、
【ピアノ協奏曲】は、ミケランジェリさんは指揮者に従うべき!折れるべきじゃないかなぁ~
、いや、折半かなぁ~と、思った。
【ピアノ協奏曲】は、指揮者が居るんだから、
指揮者に従っておいて…
別日に、ミケランジェリさんがどうしても【オレはこの解釈だ!】というのを、弾き振りして披露すればいいんじゃん?
と、私は個人的に思った。