子宮頸がんの脅威を誇張するHPVワクチン推進派医師の言説を検証する(補足コメント編) | NANAのブログ

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本稿は以下の4本のブログ記事、

 

子宮頸がんの脅威を誇張するHPVワクチン推進派医師の言説を検証する(本編1)

 

子宮頸がんの脅威を誇張するHPVワクチン推進派医師の言説を検証する(本編2)

 

子宮頸がんの脅威を誇張するHPVワクチン推進派医師の言説を検証する(本編3)

 

子宮頸がんの脅威を誇張するHPVワクチン推進派医師の言説を検証する(本編4)

 

の「補足コメント編」になります。

本編記事をお読みいただく際の参考にしていただければ幸いです。

 

【補足コメント(1)】 

「粗死亡率」と「年齢調整死亡率」について

 

粗死亡率とは、単純に単位人口当たりの死亡率を指します。

(疫学・医療統計では通常、10万人が単位人口となっています)

 

年齢調整死亡率とは、ある特定の人口構成(各年齢階級ごとの人口構成比率:いわゆる人口ピラミッド)モデルに合致するように、死亡率を年齢調整したものを指します。

 

そこで、高齢層の比率が高いA国(日本はまさにこれに該当します)と若年層の比率が高いB国の子宮頸がん死亡率の比較を考えてみます。 

 

AB両国において、各年齢階層(疫学・医療統計の用語では年齢階級といいます)、例えば10歳きざみの各年齢階級の単位人口当たりの子宮頸がん死亡率が仮に全ての年齢階級において一致すれば、年齢調整死亡率は同じ数値になります。

 

しかし、粗死亡率(全女性の単位人口当たりの死亡率)はA国が高くなります。 その理由は、子宮頸がんを含め一般的にがんの死亡率は高齢になるほど高くなるので、高齢層の絶対人口数が多いA国ではそれが粗死亡率にストレートに反映されるからです。

(小児がんのような場合は、この話は逆転します) 

 

したがって、人口構成が異なる国の間でがん死亡率を適切に比較するためには、「年齢調整死亡率」を使わなければなりません。

また、同じ国であっても時代が変わるとともに人口構成も変化するので、がん死亡率の経年的な変化を評価する場合にも、ある特定年度の人口構成に基づいた「年齢調整死亡率」が使われることになります。

(日本の統計データでは、昭和60年の人口構成が年齢調整の基準モデルになっています。)

 

以上のように、死亡率の国際比較をする際には「年齢調整死亡率」を使わなければならないのに、不適切な「粗死亡率」で国際比較を行って日本のがん死亡率を誇張し、それによつて、がんに対する恐怖を過剰に煽りながら検診や人間ドックの勧誘をしている悪質な事例があります。

そのひとつは、人間ドック・がん検診などのオンライン予約サイトを開設している国内最大級のMRSO(マーソ)という医療関連の企業体です。

 

このサイトに世界、日本のがんの現況について調べてみました!と題されたページがあります。その冒頭には、「近年、欧米主要国のがん死亡率は減少傾向にあるにも関わらず、日本は増加する一方。」と聞き捨てならないことが書かれており、その根拠として日本と欧米主要国を比較した全がん死亡率の年次推移グラフ(男女別)が掲示されています。

そして、「日本は増加する一方」だという原因の一つが「がん検診受診率の低さ」だと説明されています。

 

書かれていることは本当でしょうか。まず当該Webページからそのグラフを引用してみます。

 

 

お気づきの方も多いと思いますが、このような統計データの引用のやり方は、読者を意図的にミスリードしていると言われても仕方ないほど不適切かつ悪質なものです。

 

まず指摘しなければならないのは、グラフが極めてご都合主義的に20年も前の1997年の時点で打ち切られていることです。次に、グラフで示されているのは「粗死亡率」という点です。適切な比較のためには「年齢調整死亡率」を使わなければなりません。

以下にそれを掲示します。

 

 

この年齢調整死亡率のグラフをみると、がんに関して日本人は主要先進国の中でもトップレベルの好成績(死亡率が低いこと)を常に保ってきたことが分かります。特に女性の死亡率(年齢調整死亡率)は1960年以降、一貫して下がってきています。長寿国と言われる所以のひとつでしょう。

 

さらに、この統計データからは「がん検診はがん死亡率の低下に殆んど寄与していないのではないか。仮に寄与したとしても、言われているような大きなものではなく、僅かなものではないか。」という大きな疑問も浮上してきます。

何故なら、日本は何十年も前から、そして現在もなお、全てのがん検診の検診受診率が他の先進国に比して非常に低いと叫ばれてきたのにもかかわらず、がん死亡率は検診先進諸国に比べても常にトップレベルの好成績(がん死亡率が低いこと)を保ってきたからです。日本と検診先進国のがん死亡率の推移を比較したこのグラフの評価を、検診の導入(時期)やその普及度合いによって解釈・説明するのは極めて困難と言えるでしょう。

 

「医療は恫喝産業」とよく言われますが、それは、病気に対する不安や恐怖を呼び起こすことが人間の行動の強力な動機付けになることが分かっているからです。そのことは行動科学や社会心理学の研究知見としても明らかにされています。そのような、人々の病気とくにがんに対する不安や恐怖を過剰に煽って、医療に呼び込もうとしている実例は沢山あります。

 

たとえばHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)では、日本での導入にあたって子宮頸がんの脅威が過剰、誇大に煽られアナウンスされていました。これでもかと言うばかりにテレビCMも頻繁に流されていました。

と同時に、未だ臨床データもなく実証されていない「効果」(子宮頸がんの罹患や死亡の減少)が過大に喧伝され、異例、異常と言える早さで拙速に認可され導入された経緯があります。

 

年齢調整死亡率についてもう少し付記します。

複数の国の間でがん死亡率を比較評価する際に、あるひとつの人口構成モデルを基準にした年齢調整死亡率の結果だけを絶対視することはできません。というのは、ある特定の人口構成モデルを基準とした年齢調整死亡率によってA,B,Cの三国を比べた時に A>B>C という結果になったとしても、別の人口構成モデルを用いた年齢調整死亡率で比較した時に、その結果が変わることがあり得るからです。したがって、複数の国のがん死亡率やその年次推移などをより深く掘り下げて比較・評価する場合には、年齢調整死亡率の結果だけでなく、各年齢階級ごとの死亡率の比較も含めた総合的な検討も必要になるでしょう。

 

疫学医療統計データの年齢調整のための基準となる人口構成のモデルについては、複数のモデルが提案されています。世界的に汎用されている人口構成モデルとしては、WHOが提唱している「世界人口」モデルがあります。

「世界人口」モデルによって年齢調整された死亡率は、日本語では「年齢調整(WHO)死亡率」もしくは「年齢調整(世界人口)死亡率」と表記され、英語では「World Age-Adjusted Mortality Rate」などと表記されます。

また、EU圏では「欧州人口」モデル(European Age standard)によって年齢調整された「European Age Adjusted Mortality Rate」も汎用されています。

 

尚、本編記事に掲示した一連のグラフの死亡率は全て「年齢調整(WHO)死亡率」(World Age-Adjusted Mortality Rate)となっています。

 

〔参考Web記事、関連資料〕 

『罹患率・死亡率の計算、年齢調整の方法』 AGE STANDARDIZATION OF RATES:A NEW WHO STANDARD 

 

汎用される人口モデル例(上記Web記事より)

年齢調整人口 3モデル

【補足コメント(2)】 

「がん登録制度」について

 

がんの罹患および生存や死亡等の精度の高い統計情報を得るための仕組みとして、「がん登録制度」があります。 欧州では北欧諸国を中心に早くから「がん登録制度」が整備されてきました。また、米国では1972年にSurveillance Epidemiology and End Results Program(SEER Program)という「がん登録システム」がスタートしています。 

 

一方日本の現状はと見ると、肝心のがんの診断や死亡の転帰等の診断について、その医学的整合性のチェックが全国的に統一された基準で厳格に行われているとは言い難い面があります。特に、罹患に関する統計情報について言えば、他の都道府県に転居して医療機関を受診したがん患者が二重登録されていたりと、その精度は決して高いと言えるものではありませんでした。 そういった反省に立って、日本では2016年1月から新しい『全国がん登録』の制度がスタートしています。

 

高精度・高品質の統計情報を集積するためには、よく練られたプロトコールと基準に基づいた専門性の高い作業が求められます。そういった点から見て、新制度にも改善すべきところがあり、精度の高いものが実現できるかについては疑問が残ります。

新しい『がん登録』システムの具体的な問題点については、改めて記事にできればと思っています。

 

【補足コメント(3)】

国際疾病分類 第10版(ICD-10)における子宮がん、子宮頸がん、子宮体がんの分類(コード名)について

 

国際疾病分類(International Classification of Diseases:ICD)(正式名称は「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems))は、死因や疾病の国際的な統計の基準として、WHOによって公表されている分類規定です。

 

WHO傘下のIARC(International Agency for Research on Cancer)がん死亡に関する統計データベースでの分類名である「Cervix Uteri」(子宮頸がん)、「Corpus Uteri」(子宮体がん)、「Uterus」(子宮がん)は、同じくWHOによって公開されている国際疾病分類 第10版(ICD-10)では以下のように該当します。

 

[ICD-10 コード名][IARCデータベース 疾病名]

  C53  (Cervix Uteri:子宮頸がん)

  ​​C54  (Corpus Uteri:子宮体がん)

  C55  (Uterus:子宮がん)

 

【補足コメント(4)】

より真の実態に近い日本の「子宮頸がん年齢調整(WHO)死亡率 年次推移」について

 

(本編1)で掲示した【グラフ-A】【グラフ-B】「日本の子宮頸がん年齢調整(WHO)死亡率の年次推移は、記事本文で説明したように、「補正法-A」によって得たバックデータを元に作製したものですが、真の実態を表す統計データという観点からより深く考察してみると、以下のことが指摘できるのではないかと考えています。

 

(1) 「分類不明の子宮がん」の比率は年々、低くなっています。つまり、「子宮頸がん」と「子宮体がん」に鑑別診断され報告計上される割合は年々増えています。

 

(2)「子宮頸がん」と「子宮体がん」の鑑別診断が不能もしくは困難な症例は、病巣部が子宮頸部および体部に広がった状態で発見される進行がんに多いと言えます。

 

(3) 子宮頸がんに対する社会的認知度や検診受診率の上昇などに伴って、子宮頸がんが進行がんや末期がんの状態で発見・診断される割合は年々減ってきています。実際に、日本産婦人科学会の「婦人科腫瘍委員会」が発表している子宮頸がんに関する報告資料によれば、ステージ(病期)が進んだ状態で発見・診断される子宮頸がんの比率は年々、低下してきたことが分かります

 

(4) 検診が漸次普及してきた子宮頸がんにおいては、検診があまり普及していない子宮体がんに比して、鑑別診断されるケースが増えてきたので、「分類不明の子宮がん」の中に占める子宮頸がんの割合は、検診の普及に並行して年々、減少してきたと推定されます。

 

以上のような、子宮頸がん検診の普及に伴って鑑別診断される子宮頸がんの相対的割合が増えてきたこと、言い換えれば「分類不明の子宮がん」の中に占める子宮頸がんの割合が年々減ってきていることを、単純比例配分方式の「補正法-A」にさらに加味すれば「補正法-A」だけで補正した「子宮頸がん年齢調整死亡率の年次推移」は、もう少し違うものになるのではないかと考えられます。

 

具体的に言えば、本編記事に掲げた【グラフ-A】【グラフ-B】「日本の子宮頸がん年齢調整(WHO)死亡率の年次推移」は、2000年頃から横ばい状態となっていますが、実際には減少傾向が続いている可能性も考えられます。

しかし、上記のことを加味した補正方法(便宜上それを「補正法-B」と名付けます)は、その定量化が困難なので、本編で掲示した統計グラフは全て「補正法-A」だけによって補正推計したバックデータを元に作成しています。

 

【補足コメント(5)】

子宮頸がんの罹患率統計データと過剰診断等の問題について


子宮頸がんの罹患率の統計データには、死亡率の統計データに比べてその数値を見かけ上、大きく左右する重大な問題が存在しています。それは膨大な数の無症状の人に行う検診によって発生している過剰診断や偽陽性(誤診)等の問題です。

 

無症状の健康な人に濃厚な検診を行ってがんを一生懸命探そうとすればするほど、「がん」の発見数は増えます。しかし、その中には将来に渡って症状を起こさず、命の危険も及ぼさない医療介入不要な「がん」の存在することが近年、多くの専門家によって認められています。そういった「がん」を発見・診断することを過剰診断と呼んでいます。

また、頻度は稀としても偽陽性の判定から最終的に上皮内がん(CIN3)や子宮頸がんと誤診されているケースも、検診の総数が膨大になるだけに、軽視できない数になっているのではないかと推察されます。

(※ (注):過剰診断は現代の病理診断基準で「がん」と確定診断された中に発生するものを指します。したがって、偽陽性や誤診とは医学的意味が異なります。)

 

過剰診断については、例えば米国で乳がんや前立腺がん検診が普及したことによって、見かけ上の罹患率が大きく上昇したことが複数の研究によって明かにされ、問題になっています。過剰診断は乳がんや前立腺がんに限らず殆んどの固形がん種で発生していること、そして、過剰診断は非浸潤がん(上皮内がん)だけでなく浸潤がんでも発生していることが、米国NCIの研究者をはじめ多くの研究者から指摘されています。

 

子宮頸がんでは、検診の普及に伴って「前がん病変」と言われるCIN3(高度異形成~上皮内がん:『がん情報サービス』の統計データでは「上皮内がん」がCIN3に該当します)の過剰診断が著しく増加しています。

検診によるCIN3の過剰診断の発生頻度は、乳がん検診や前立腺がん検診での過剰診断のそれを遥かに上回っているのは間違いありません。そして、CIN3の過剰診断より発生頻度は少ないでしょうが、子宮頸がん(主に微少浸潤がん)でも過剰診断が発生しています。

 

検診の普及に伴って増加する過剰診断や偽陽性(誤診)は、罹患率を見かけ上大きくすることになり、その度合いは検診の質(細胞診や組織診検査の病理診断基準)やその普及度に左右されることになります。

したがって、子宮頸がん罹患率の経年的変化(年次推移)やその国際的比較を適切に正しく評価するのは、非常に難しいことだと考えています。

加えて、がん登録プログラムが整備され罹患の実態が把握されている北欧などの検診先進国と異なり、「がん登録制度」が整備されていない日本では罹患に関する統計データはあくまでも推計値であり、その精度や信頼性は低いと言えます。そのような状況下で、『がん情報サービス』などが公開している罹患率に関する統計データをそのまま安易に引用したり、それを使って国際間比較などをすると、誤った評価やミスリードをしてしまうことになりかねません。

 

以上のような理由から、本編記事では日本の子宮頸がん罹患率に関する統計データ(グラフ)やその国際比較のグラフ等は敢えて掲示していません。また、実態を的確に反映した統計データを得ることが困難なので、検討・検証の論題としていません。それは議論から逃げているのではなく、議論の土台である正確なデータが得られないという理由からです。

 

【補足コメント(6)】

IARCのデータベースと各国の統計データについて

 

IARC(International Agency for Research on Cancer)のデータベースhttp://www-dep.iarc.fr/WHOdb/graph4_sel.aspは世界各国から報告された統計データを整理集積した二次情報なので、その統計データが各国独自に公開している統計データ(一次情報)と間違いなく一致しているか、念のために幾つかの国でチェックを行ってみました。

日本のデータについては『がん情報サービス』の統計データと照合しました。米国のデータについては米国NCIのがん登録システムである『SEER Program』公式サイトの子宮頸がん統計情報のページに記載されているデータと、英国のデータについては『Cancer Research UK』のCervical cancer mortality statisticsに記載されているデータと照合してみました。

データのごく一部に許容誤差範囲内の数値のズレがありましたが、問題なく一致していることを確認しています。