バレンタインデー当日。


いつもより少し早めの電車に乗る。
大抵一番乗りだったが、この日はどうしても誰よりも早く教室に着きたかった。


「おはようございます。」


授業の準備をしている先生に挨拶し、他には誰もいない教室で一人椅子に腰を下ろす。
少し大きめの紙袋をそっと足元に隠し、いつものようにPCの電源を入れた。




「旦那さんにあげるの?」


「まだ用意してない(笑)。」


「私は一応作ったよ。」


「マジで??」


いつの間にか仲良くなった4人組でのランチタイム。


たまたまみんな既婚者で、話題は家庭、旦那さんの話がほとんどだった。
したがって、今日がバレンタインデーだからといって別段盛り上がることはなかった。


みんな旦那さん一筋なんだろうな・・・
私に彼がいるなんて知ったらどう思うだろう・・・?


旦那さんの話題で盛り上がる時、毎回のようにそう心の中で思った。
そんな彼のためにチョコを作って、今夜待ち合わせをしていて・・・なんて口が裂けても言えない。


みんなの話題に合わせるように差し障りのないことだけを話してこの日も平和なランチを終えた。




「今日は私、こっちなんだ~。」


学校帰り。
いつものようにみんなで駅まで歩く。


「そうなんだ。」


「また明日ね~。」


「お疲れさま~。」


不審がることなくみんなはいつもの電車に乗って帰って行った。


タカシとは19時にこの駅で待ち合わせをしていた。
時間まで2時間近くあったため、近くのネットカフェで時間を潰すことにした。





もうそろそろ着くよ。
どこにいる?



19時。
タカシからのメールを受け、慌ててネットカフェを後にする私。



改札の前で待ってるね。



歩きながらそうメールを送った。



数分後。


「もしもし?どこ?」


「え?改札の前だよ。いない?黒のコートで・・・」


「あ、いた(笑)。」


「え?どこ・・・?私の方がわかんないよ。」


「丸いのが見える(笑)。」


「はい?人違いでは(笑)?ってどこよ・・・あ、いた(笑)。」


こんな日なのにそんなバカっぽい会話をしながら落ち合った。


「丸くないはずなのに(笑)。」


「そう(笑)?」


こんな風に言い合えるのも仲が良い証拠ということで、からかわれているにもかかわらず幸せな気分になる。


「ナナ、時間ある?」


「私はあるけど、タカシこそあるの?怪しまれるんじゃない?」


数年前の同じ日。
「あまり遅いと怪しまれるから」と受け取ってすぐに帰られたことがあった。


「大丈夫。どこかでお茶しよっか。」


「うん、しよっか(笑)。」


紙袋を持つ手に力が入る。
タカシの返事を聞いて顔が思わずほころんだ。


駅のすぐ側にあるドトールでお茶をすることにした私たち。
ロイヤルミルクティを2つオーダーし、二階席へと向かった。