結局、送別会では席が正面ってだけで、二人だけの接点というものは全くなく終わる。
だけど、最後に「みんなから」と言ってお菓子をもらったのだが、そのお菓子はタカシが一人で選んだとのことだった。
そう聞いて初めは嬉しかった。
でも。
タカシの自宅の近所にある有名店のものだと知った時、嬉さが薄れた。


その地名を聞くと、一度も見たことがないというのにタカシの家族3人の姿を思い浮かべてしまう。
その近辺を3人で歩いてるのかなと勝手にほのぼのした絵を頭の中で描いてしまい、そしてブルーになった。


「星野さん、甘いの好きでしょ(笑)?」


無邪気にタカシが笑う。
当然知ってるけどみんながいる手前聞いている、と言いたげな笑顔につられ、私も笑顔でうなずいた。


そうだよ。
タカシは私のために選んでくれたんだ・・・
私のことを想って・・・


そう思い直し、素直に喜ぶことにした。






「何かもらったの?」


「うん、お菓子ね。でも少しだからあげない(笑)。」


家に帰ってユウスケさんに聞かれるも、そう笑って答えた。


量はたくさんあった。
でもタカシから貰ったお菓子だ。
どうしても私一人で食べたかった。
結局、2週間くらいかけて一人で食べ切った。





送別会の2日後。
タカシとは銀座で待ち合わせをしていた。


「もしもし?今どこ?」


「今交番に向かって歩いてるよ。」


18時40分に数寄屋橋交差点の交番前で待ち合わせていた私たち。
先に着いた私の元にタカシから電話がかかってきた。


この日はお食事デート。
銀座のとあるイタリアンレストランを予約していた。




「お疲れさま~。」


「お疲れ~。」


タカシはビール、私は甘いカクテルをそれぞれ持ち、乾杯する。


「はい。」


「お、ありがと。」


最初に運ばれてきたサラダをシェアする。


「今日はさ~、田本くんが・・・」


タカシと会社の話をする。
向かい合い、会社の話をしながら食事をする。
今まで当たり前のようにしていたことが今はすごく新鮮で懐かしくて嬉しかった。





「また来ようね。」


「うん。また来ようね。」


私が選んだお店をタカシも気に入ってくれた。
そして、また約束ができた。





「これからどうする?」


「どうしよっか?時間は大丈夫?」


時間はまだ20時半を過ぎた頃だった。


「大丈夫。それにまだ帰るには早くない?」


「うん。私もまだ帰りたくない。」


そう素直に言えるのはお酒のせいでもあったのだろう。


「じゃあさ・・・、俺の趣味に付き合う?」


「ん?趣味?」


タカシがニコッと笑った。