2007年3月26日。
3月も終わろうとしていたこの日、私の退職がきっかけでタカシとの関係が復活した。
とはいえ、久しぶりのデートが実現したのは4月の下旬だった。
繁忙期ということで、特に4月上旬は一日のうち仕事と睡眠以外に充てる時間はないってくらい業務に没頭しなければならなかった。



そして、4月中旬。


最終出社日を5月18日の金曜日と決めた私。
ちょうど一ヶ月前になるように退職届を部長経由で人事部に提出した。


と同時に、仲の良かった人、お世話になった人etc.に退職報告とこれまでの感謝の気持ちを伝えるためにメールを送った。
ありがたいことにみんな残念がったり淋しがったりしてくれた。


送って十数分後に送別会の企画メールをしてくれた本社同期のタカッチ。
この頃の本社には同期が20人以上いたが、「あまり多いと話が出来ない」との理由で同じ部署の酒井くん、白石くん、あと気を利かせてくれたのかタカシを誘って5月上旬に送別会を開いてくれることになった。
また、支店研修のときに一緒だったマサコが、入社後2ヶ月間だけしか一緒に働いていないというのにすぐに当時のメンバーに声をかけてくれ、みんなが参加できるよう遅い時間からの送別会を5月に企画してくれた。
他にも、その支店研修時代に少しだけ関係のあった今井支店長(当時は今井主任)からも「お疲れさま会を是非したい」と言われたり、何人もの方が携帯の番号やアドレスを教えてくれたりした。


そうそう、今となっては懐かしい今井支店長からはごくたまに仕事上の質問メールが来ていた。
というのも、昔、今井支店長からの問い合わせの電話をタカシが取り、すごくヤキモチを妬かれたことがあった。
それ以来電話ではなくメールでと今井支店長にはお願いしていた。
もう何の関係もなかったが、タカシに余計な心配をかけたくなくてそうしていた。


そういえば一度だけ仕事に関係のないメールが来たことがあった。

私の結婚がきっかけ。
結婚式を直前に控えた頃、たまたま今井支店長から仕事の質問メールが来た。
その返事の最後に「結婚することになりました。でも会社は辞めませんので今後ともよろしくお願いします。」といった感じに付け加えた。
結婚し苗字が変わるに伴いメールのアドレスも変わってしまう。
だから次のメールで気付くだろう。
今言っても後で言っても同じな気がしてそう報告した。

すると「結婚式はいつですか?是非祝電を送りたいので日時と場所を教えてください」と返事が返ってきた。
関係があった頃からもう5年以上も経っておりさすがに大丈夫だろうとは思ったが、なんとなく怖くてはぐらかした。
それ以上聞いてこなかったから祝電は届かなかったが、そういえばそんなことがあった。
こういったことももしかしたらタカシがヤキモチを妬くかもと思いタカシには内緒にしていたっけ。


その他いろんな人から返事をもらえることができ、中には社交辞令も当然あるだろうが、そういう人たちと過ごせる会社から去ることがふと淋しく感じた。




そして、4月下旬。


少し業務が落ち着いた頃、久しぶりのデートの日がやってきた。


「いつにする?」「この日にしようか」とか「どこに行く?」「あの辺にしようか」とか、デート当日のことについて数日前から話をしていた。
再スタートすることが決まって以来なんとなく毎日が現実のものとは思えなくて、こうしてデートの詳細を決めているにもかかわらず自分のこととは思えない、そんな感覚に襲われた。


でも、ホントなんだ・・・
またタカシとくっつけるんだ・・・


嘘のようで嘘じゃない現実に困惑しては一人喜びを噛み締めた。




デート当日。


朝から夜のことを考えていたため、終日仕事になんてならなかった。




18時過ぎ。


廊下から仕事を終え更衣室に向かう女性社員たちの笑い声が聞こえてくる。
一方部内はまだどことなく忙しい雰囲気を醸し出しており、誰一人として席を立つ気配さえなかった。



「今日はもう帰ります。」


そんな中PCの電源を落とす私。


「もう帰るの(笑)?」


「はい、明日頑張ります(笑)。」


仕事だけはきっちりしている私。
たまにの定時あがりに文句は言われない。
少し後ろめたさを感じたが、それよりも大事な用事がある。


「それでは、お疲れさまでした。お先に失礼します。」


カチカチというキーボードを打つ音が響く中、一人部を後にした。




渋谷に19時。
それがタカシとの待ち合わせだった。


毎日顔を合わせているにもかかわらずもうすぐプライベートのタカシに会えると思ったら緊張が高まる。
時間はたっぷりあったが、急ぎ足で更衣室に向かった。