キヨミ先輩が上司の課長と二人で会議室に入る。
その様子を一人見守っていた。


キヨミ先輩の退職。
課長はどんな顔をして聞いているのだろう。


席に着き、仕事に取り掛かったが、二人のいる会議室のドアばかりが気になる。
周りに悟られないようにしながらもチラッ、チラッと動かないドアを見ていた。




20分後。
それまで動かなかったドアが開いた。


出てきたのは課長一人。
慌てているのか、小走りで部長を呼びに行くのが目に入った。


動揺しているのだろう。
その様子からキヨミ先輩の退職がいかに業務に影響を及ぼすのかが窺い知れる。
そりゃそうだろう。
キヨミ先輩がどれだけ業務を担当してきたのかを考えればその慌てっぷりも容易に理解できる。


部長も加わってからさらに30分が経過した頃、ようやく3人が会議室から出てきた。


青ざめた顔の部長と課長。
一方すがすがしい顔のキヨミ先輩。
その表情は対照的だった。


午後一番に各チームの課長たちが会議室に集められた。
議題はもちろんキヨミ先輩が抜けてからの業務体制についてだろう。
課長たちがいないおかげで部内は人が少なく、かつ、和やかな雰囲気だった。




「言っちゃった(笑)。」


キヨミ先輩が私とミカ先輩のところにやってきた。


「すみません、ミカ先輩。私来月末で退職することにしました。」


「そっか。」


言いにくそうに報告するキヨミ先輩。
でも気づいていたかのようにミカ先輩は静かに頷いた。


「どうでした?反応・・・」


興味津々で聞く私。
自分のときの参考にと聞いておきたかったのだ。


「うん・・・すっごくびっくりしてた(笑)。部長もね。ホントに辞めるの?って言われた(笑)。・・・でもそこまで追い込んだのは他の誰でもなく部長だからね。引継ぎはちゃんとするけど後はよろしくって感じだよ。」


そう・・・
これは部長が私たち女性社員を蔑ろにした結果だと思う・・・
私だってそれがきっかけで退職することに踏ん切りがついたのだから・・・


キヨミ先輩の悔しい気持ちが手に取るようにわかった。


キヨミ先輩によると、最終出社日を3月23日(金)とし、その後少し有休を消化して3月末日付で退職するとのことだった。
翌4月1日からはもう新しい職場で働くらしい。


「次の会社は上司がオーストラリア人なんだよね(笑)。」


キヨミ先輩は英語が得意だった。
名の知れた外資系企業への転職で年収も今よりUPするらしく、理想的な転職と言えるだろう。
何よりキヨミ先輩の笑顔がそう言っていた。


翌日の朝礼でキヨミ先輩の退職が発表された。
みんな驚きを隠せない様子だった。


「次はナナちゃんの番だね(笑)。」


キヨミ先輩にそう耳打ちされる。


次は私の番・・・
会社に言う前に・・・
まずはタカシに報告しなきゃ・・・


心の中の緊張度が一気に高まるのが自分でもわかった。