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結構な年齢まで独身だった私のことを 悪く言われたことは一度もないけれど
ひとりで気ままに生きている姿は 多くの人の目に変わり者に見えたかもしれない


若しくは何に関しても無関心であったり、感性が鈍いと思われたかもしれない


むしろどちらかというと感性が強すぎるぐらいだ
小さな子や動物が死ぬ映画は見たくないし
お化けも怖いし、誰かに脅かされたらもれなく驚く

その傾向は年々強くなってきていて、社会情勢やニュースでも心がもたなくなって
TVニュースを見れなくなってしまう
これを加齢と片づけるなら、わかりやすくて良いかもしれない

今の年齢に達する前でも 美しいものも好きだった
美しいの定義は人それぞれだけれど、私が美しいと思うものは記憶に深く深く刻むようにしている

食べるのが勿体ないような美しいペイストリー
写真を撮るとなぜか霞んでしまう美しい景色
自分の語彙力では語ることが憚られるほどの美しいアート

美しいと思う対象はいくらでもある

私はどちらかというと
一瞬気を抜いたら見逃してしまうほど、些細な美しい出来事をしっかり覚えていたいと感じている

忘れっぽい性格だけれど、これだと思ったものはずっと覚えている
ともすれば、映像や画像のように、脳内でセピアにしてみたり、ピンクにしてみたりと加工して楽しんだりもする


独身で気ままで、私の世界には仕事か自分か、もしくはヒロくんだけだった
そんな時代ですら私は少しずつ美しい瞬間を貯めてきた

家族が出来て 一つ一つのことに感動する暇がなくなってしまったけれど、
ふと、私が思う美しい瞬間はいくらでもあって
これまでもこれからも、確実に私の財産だと思っている

 

 

 

 

 

こんなこと書いて、自分が特別な人間だと言いたいわけではない
多分、だれでもある当たり前のことだから言うまでもない

なぜこんなことを描いているかというと…
あれほど心を焦がしたヒロくんに対して、関心が向かなくなってきている

もともと面白くて私を釘付けにする人ではなかったけれど、
ヒロくんに対する気持ちが経年劣化したわけでもなく、これが普通で当たり前のことに感じ始めた


多分私はこれまでも、彼と過ごした時間で美しいと思ったことを文字にしてきたと思う


でも、そんな心を震わす美しい瞬間は、残念ながら減ってしまった

帰宅したら彼がキッズに食事の支度をしていた
真冬なのに何故か上半身裸だった
なぜ裸で料理をしているかと訊くと、「油が跳ねるから」という

以前の私なら、(私にとって美しい)男性がフライパンを裸で振る姿に感動したかもしれない

今は…「危なくないの?やけどしないでね。。。」と所帯じみている


以前なら美しい瞬間だとラッピングをしてしまったものを
今なら感動すらしないだけなのかもしれない

私は意外に薄情な女だった(笑)


先日、東京で珍しく雪が降った日
ヒロくんは夜勤明けだった

私たちは用事があって待ち合わせをしていて…
私はキッズを送り出し、自宅から待ち合わせ場所へ
彼は職場から直接来た

私はとても寒かったけれど外で待っていた
雪が思ったより強くなり、傘をさし震えていると ヌッとい黒ずくめの大きな男が私の前に現れる

案の定、傘は持っていない

雪国で降るような雪ではなく、水分の多い霙
傘をささないで来るなんて…
そして何なの、その薄着!!

私は自分の折り畳み傘に入るように言った

「大丈夫だよ、菜々ちゃんが濡れるよ?」

改めて腕を伸ばし彼が傘に入れるようにすると、これほど身長差があったんだと驚く
彼は身を屈めるように傘にはいった

寝不足なのか いつも以上に青白い顔
マスクをしていてもわかる疲れた顔で笑った

「優しいね‥」
と彼が言って、傘を持つ私の手を上から 彼は手を握り 私の傘を取り上げる

私の折り畳み傘を持つ姿は、サイズ感が明らかに間違っていたし、
傘ははるか上空にいてってしまったような気がした
そして彼が「相合傘だ」とぼそっと言った


不似合いな小さな傘を持つ彼は トトロみたいで、私はさつきちゃんかな?
相合傘なんて古臭い言いまわしと、古いアニメが妙に合っていて少し笑えた

久しぶりに思い出した感覚

絶対に忘れたくない瞬間

若いころ、どうやったらこの幸せな瞬間を保存できるのかと考えていた
失うことが怖かった
でも20年経ってわかった
大丈夫…ずっとちゃんと覚えている