出来るかどうか分かりませんが、

エッセイ的なこともやってみようかと思います。



ある男性が私の目の前に座っている。ひどく緊張した様子で、先ほどから何度も氷の入った水を口にしている。この季節、いくら暖房が利いていてもアイスドリンクを飲むには、ちょっとためらわれる。ましてや、外から帰ってきたのならなおさらだ。彼の目の前の紅茶は、もう既にない。それほど喉が渇いていたのか、というと、おそらくそうでもない。


とにかく、このままだと埒が明かない。私は、思いついた言葉を出来る限り柔らかい表現に変換して、やっと言った。


「えーと、まあ、女性は清潔感がある人が好きですからね」


うん、この表現は正しい。男性の堅かった表情が、少し溶けて柔らかくなったように見えた。私は調子付いて、さらに続けた。


「優しい人がいい、男気のある人がいい、誠実な人がいい、いろんな答えが返ってくるでしょうが、小奇麗な格好の男性が嫌だという人はいませんよ。清潔感があるように見えれば、それだけで好印象です」


男性は分からない、というような顔をした。


「僕はどうなんでしょう?」

「不衛生には見えませんよ」


お世辞にも「小奇麗」とは言いがたかった。だが、まあ人によっては合格点だろう。問題はそこじゃない。


今すぐ、鏡を持ってきてあげたかった。あるいは、チェキかデジカメで、今すぐその姿を写してあげたかった。


彼が分からないというのも仕方ないだろう。人間、自分のことを客観的に見れる人なんて、そうそういない。ましてや、自分の姿に見慣れてしまっていると、「こんなものだ」と思い込んでしまうからだ。


「僕、どうしてモテないんでしょう?」


女性の私に、それをズバリ指摘させるとは、なかなか彼はSの傾向があるのかもしれない。ひょっとすると、内弁慶タイプか? なんて、余計なことを一瞬考えつつ、どうオブラートに包んで彼に伝えるか、私は必死で考えた。


彼は救いを、期待を込めて私を見つめている。ああ、困った。私も真剣に考えたいが、集中できない。彼の顔を見てはいけない。私は、先ほど彼がそうしたように、水を飲んだ。私のコーヒーも、既に飲み干した後だったからだ。冷たい。なんて冷たい液体なんだ…。彼の顔を見ないよう、何度も口に水を含んだ。


そのときだった。視界の端に、ある男性の姿が見えた。これだ! 私の目は一瞬きらめいたと思う。口を開き、彼の顎に視線をやりながら、ゆっくりと話した。


「きっと、髪は短いほうがお似合いですよ」


彼はえっ、と言った。


「いや、短くする勇気なんてないです。ずっとこうだったし」

「そこですよ。一歩踏み込んでみましょうよ。きっとお似合いです。女性は清潔感があるほうが好きなんです。坊主、とまで言いません。短い男性を見て、不潔だとは思いませんよ」


そこまで言い切ると、私はふぅ、と小さくため息をついた。


「女性に怖がられませんか? 髪が短いと怖いと思われないかと心配で」

「優しそうな顔をしてますもん、大丈夫ですよ。髪が短いほうが、男らしく見えるんじゃないでしょうかね。きっと。頼れる、って思ってもらえるかも。いかつい印象に変わることはありませんよ」


彼は納得した様子だった。そして、私の言った言葉を受け入れようとしているように見えた。


私は、やっと上手くアドバイスが出来た安堵感で、すぐに席を離れたい気持ちをぐっと抑えつつ、「うん、きりましょう、そうしましょう」とダメ押しした。


その後、彼が切ったかどうかは分からない。だが、髪を切るというアドバイスは間違っていなかったと思う。なぜなら、彼の頭部は徐々に生え際が後退していて、後ろ髪から無理矢理髪を前に持ってきて、それがゆらゆらと揺れていたからだった。地肌が透けて見え、まさにバーコード状態だった。


視界の端に現れた坊主頭の男性に感謝しなくては。彼も、きっとその感じだと薄毛なのだろうが、その坊主頭はとても似合っているし、私は「いい!」と思ったからだ。


もし容姿…いや、ずばり言うと、頭髪で悩んでいる男性は、ぜひ髪を短くしてほしい。抵抗はあるかもしれないが、そのほうが清潔感があるし、なにより潔く髪を短くするというのが男らしく感じられるからだ。


それと、できれば女性に薄毛に対するアドバイスを求めるのは避けていただけたら助かる。それは、非常に酷な質問だから。


(終)