スカルラッティ ソナタ K.141 ニ短調 アレグロ | 徒然名夢子

徒然名夢子

日々此々と過ごしけるに
東に音楽の美しきを聴けば、其処何処に赴き
西に優れたる書物のあると聞けば、其処何処に赴き
其処においても何処においても
心楽しからむことのみを願い生きることは
我の本心にほかならず

ドメニコ・スカルラッティは1685年ナポリ生まれ、父は有名な作曲家であるアレッサンドロ・スカルラッティ。スカルラッティ家は、バッハやクープランと同様音楽系一族として知られていた。ドメニコの幼少期はあまりよく知られていないが、1709年にローマに移住してからの逸話は多い。ポーランド王妃の音楽プロデュースの職を得てからサン・ピエトロ大聖堂でも働き、後に1714年末に同礼拝堂の音楽監督を得ている。

 

ソナタはチェンバロ用の楽曲であるが、ドメニコはチェンバロの演奏技術の先を見通していたと思われる。K.141では同じ鍵盤を小刻みで鳴らす奏法がとられている。そのために3から4本の指を交差させて短時間に打鍵する。もし昔のチェンバロで、アルゲリッチのような高速打鍵をしたら、おそらくチェンバロの鍵盤がジャムる。いわゆるロッキングして動かなくなるのだ。クラビア、すなわちピアノがこのような高速打鍵ができるのは、弦にハンマーが当たった瞬間に、機構の作用点がすべてリリースされ、次の打鍵に備える。

 

ドメニコは鍵盤楽器のバロックの作曲家として知られているが、歌劇、カンタータなどの宗教音楽も手がけている。

 

1757年にマドリードで71歳で亡くなるまで、バロックの王道を歩んだ人物だ。

 

動画は、マルタ・アルゲリッチによる演奏。2009年のスイス、ヴェルビエ音楽祭での演奏。おそらくアンコールでの演奏かと思われる。正確な打鍵と揺るぎの無い手の内が図太い音楽を作っている。さすがマルタだと思う。力量のないピアニストの場合、だんだんと体力を奪われ、手首が下がってくる、それを戻そうとして背中を反らし、肩をすぼめるという動作が起きるのだが、マルタは当然起きない。特筆すべきは肘の移動にまったく無駄が無い。ショパンやリストなどの音域の幅のある楽曲では、マルタでも肘の運動を使わなければならず、蓄積した疲労をどこかで解放する必要がある。ドメニコのこの楽曲では、肘の運動が必要が無いほど、手先だけで演奏できてしまうのだ。あ、アルゲリッチの称賛になってしまっているが、この曲結構難しいのだ。最初から最後までのテンポをキープするのも厄介だし、連打からの展開も難しい。

 

バッハに飽きたときにはスカルラッティの曲を演奏するのも、目の付け所が変わって良いかも知れない。