劇伴 | 徒然名夢子

徒然名夢子

日々此々と過ごしけるに
東に音楽の美しきを聴けば、其処何処に赴き
西に優れたる書物のあると聞けば、其処何処に赴き
其処においても何処においても
心楽しからむことのみを願い生きることは
我の本心にほかならず

20世紀の新古典主義音楽における「音程」の改革として、民族音楽を基礎とした微分音程が定義されたことを前回述べた。我が国での例はないものかと思ったら、Wikipediaにちゃんと書いてありました。特撮番組「電人ザボーガー」の主題歌に四分音が意図的に使われている、と。確かに1番目の歌詞の最後、「電人、電人、電人ザボーガー」というセンテンスのところで、最初の「でんじん」の「で」がD♭、次の「でんじん」の「で」がD♭の四分音、になっている。子門真人は絶対音感の持ち主で音が外れないので彼の音程は信用できる。以下の動画ではオープニングの主題歌の1番、エンディングが収録されている。

不幸にも僕はこの特撮ドラマを知らない。しかしこの主題歌とエンディングを書いた、作詞が上原正三さん、作曲が菊池俊輔さん。このお二人は存じ上げている。上原さんはゲッターロボをはじめ円谷プロのウルトラシリーズ、ロボコンなどの脚本を手掛けた人だ。初小説で今年の第33回坪田譲治文学賞を受賞されたので記憶に新しい。菊池さんは日大芸術学部音楽科卒業後、作曲家の木下忠司(お兄さんが映画監督の木下恵介)に師事して、劇伴デビューした。海底大戦争、黄金バット、昭和残侠伝シリーズなど昭和の初期から活躍し、特にテレビドラマが量産されるとともにキイハンター、Gメン’75、赤い疑惑、赤い衝撃、赤い激流、赤い絆、赤い激突、赤い嵐(他、赤い迷路、赤い魂 は木下忠司、赤い運命 は平尾昌晃、赤い死線 は宇崎竜童)、スクール☆ウォーズ、暴れん坊将軍、タイガーマスク、バビル2世、ドカベン、仮面ライダーシリーズ、Dr.スランプ アラレちゃん、そして ドラえもん。菊池さんが担当する番組は必ずヒットし、放送期間が延長されたりシリーズ化する、という伝説がある。これは、番組自体も人を惹きつけるものがあるが、さらに菊池さん加える音楽的魅力が、見る人を虜にしてしまうのだろう。

 

菊池さんの音楽の魅力は、やはりブルース(12小節形式)・ペンタトニック(五音音階)にある。主題歌なのに短調。しかもアップテンポ(16ビート)で繰り返しに同じ音程を使わない、といった緊張感のある曲作り。歌い手は苦労しただろうな、と思う。しかし、これが見る者にとってドラマのオープニングを緊張して見てしまう、子供は手を止めてテレビを見てしまう、そのような心理的効果をひきだしている。また電子楽器も積極的に使っていて、昭和初期のテレビや映画館の音響状況を考えた周波数帯域も計算して音作りをしているところも、すごいところだと思う。

 

五音音階は、1オクターブを5音で分ける音階で、全音階的五音音階(3つの全音程と2つの短3度)と半音的五音音階(長3度音程の隣に半音がある)、均等五音音階(1オクターブを均等に5棟分したもの)などがある。ペンタトニックでは全音階的五音音階を主にいう。ド・レ・ミ・ソ・ラ(C,D,E,G,A)を呂旋法(または陽旋法)とよびボヘミア、スコットランド、中国、インド、日本民謡で使われる。この音階では上行CDEGAも下行AGEDCも同じ音程をとる。陰旋法(日本)では、上行でド・レ♭・ファ・ソ・ラ#(C,Des,F,G,Ais)、下行でラ♭・ソ・ファ・レ♭・ド(As,G,F,Des,C)をとる。この五音音階はペンタトニック・スケールと呼ばれ、アメリカなどの黒人音楽にもみられ、ブルースでは基音ラにしたマイナー・ペンタトニック・スケールはラ・ド・レ・ミ・ソ(A3,C4,D4,E4,G4)をとる。

 

動画はブルガリア民謡の合唱団による江戸子守歌。ベースとなるブルガリア民謡と日本民謡が融合している。聞き取りにくいが、「坊やは」の部分でコブシが入っている。見事だ。

 

さて、「劇伴」の意味だが、日本的な言い回しで、英語ではInstrumental である。歌を伴わない劇中に流れる音楽で、演劇の伴奏という意味から劇伴と呼ばれている。劇やテレビドラマ、映画などは商業的であるためスポンサーの要請などにより歌を伴った劇伴が使われることがある。これは挿入歌と呼ばれる。最近の映画ではエンディングで流れることがありこれをメインテーマと呼ぶことが多い。