昨日書いたアントニー・バートン編の「ロマン派の音楽」を読んでいくと、鍵盤楽器の章がある。この章は、ロイ・ホワット(近代フランス音楽の演奏と研究で著名、ヴラド・ペルルミュテールにピアノ師事。ドビュッシーのピアノ曲全集など演奏家としても活躍)とオルガニストのデイヴィッド・グッド(イートン・カレッジのオルガニストで鍵盤部門の学科長、バッハのフーガの技法や、同じくバッハのオルガン曲全集を録音するなど演奏家としても著名)が共著している。なので、まちがった記述はない。
ロマン派時代においてはピアノが大きく変化した時代だ。産業革命により金属を使って撚った弦や、鍵盤からハンマーまでのメカニズムについても試行錯誤が多くされた。産業革命や王政・帝政廃止などにより、音楽を演奏するという文化的行為が多くの市民に受け入れられるようになったため、ピアノ製造会社がどんどんできてきた。そのため運動力学や音響工学を研究している物理学者なども協力し、よりよいピアノづくりがなされていく。
大きな転換点は、エラールというピアノ製造会社が特許を取得したダブル・エスケープメントという機構だ。これは、鍵盤を押して、ハンマーが弦に触れる2~3mmの位置まで来ると、ハンマーと鍵盤をつなげていた力線が切れ、ハンマーは惰性で弦を叩き音が出る。一方で鍵盤とハンマーをつないでいた部品群は鍵盤の状態にかかわらず初期状態に戻る。これにより、同じ鍵盤での高速な打鍵による発声が可能となる。この仕組みは現代のピアノにおいてアップライトもグランドピアノも備えている。
ショパンが愛したピアノはプレイエル社のもので、エラール社にくらべてハンマーを巻いているフェルトが柔らかいため、深みのある音色だったためだと言われている。リストはその作曲技法に応じるようなエラール社のピアノを好んでいたようだ。
後にデュープレックス(倍音機構)についてはスタインウェイ社が特許をとることになり、より表現の幅を広げるためスタインウェイ社のピアノを多くの人々が求めるようになる。スタインウェイ社については本社が英国、スタインウェイ&サンズ社は米国にわかれてある。多くのピアノ製造会社は材木を取り扱う集積地のそばに設立されている。日本の浜松にヤマハと河合楽器が誕生したのは、天竜川を下る材木の集積地だったことと、三河にあった紡績産業向けの機械づくり(機織り機などの機構が比較的似ている)がマッチしたからだ。また、モダンピアノは重量が20トンちかくになり、陸路より海路で運ぶ方が昔はよかったからかもしれない。
現代のピアノには、鍵盤の最後の一押しにウェイトがかかるようになっている。これはハンマー・アクションへのきっかけを体に押してくれるため、次の動作に移りやすい。アップライトの安価なモデルだと、これがないので、弾いているとふにゃふにゃな感じがする。最新の電子ピアノではウェイト機構もありエスケープメント機構のような感触もあり、で実際のグランドピアノを演奏しているように感じることができる。何年かするとアップライトピアノは無くなってしまうのではないだろうか。ただし、弦が鳴るという感じを体で受け止めるというのは、電子ピアノでは無理だろうから、そういった要望にこたえるために生き続けるかもしれない。
僕の電子ピアノは、YAMAHAのCFXとベーゼンドルファーの両方の音源が搭載されている。なかなか味のあるピアノで、現在YAMAHAの出資のもと良質のピアノを生産している。
動画はリストのピアノ・ソナタ ロ短調 S.178 演奏は佐藤卓史さん。とても良い演奏だ。この曲はこうやって弾くんだよ、と教えていただいている感じがする。
また、ベーゼンドルファーのピアノを上から見ると、他のメーカーとの違いがよくわかる。