皆様、ごきげんよう。

 

今日はわたくし、大学同期の友人と「韓国ドラマを語る会」を催してまいりましたよ(ランチ会)。それぞれのベスト10を持ち寄ろう、とのことだったのですが、何人かの参加者で重複したのは、『ミセン』『ヴィンツェンツォ』『SKYキャッスル』『梨泰院クラス』『シスターズ』等々だったかな。私は『愛の不時着』と『シークレットガーデン』を挙げましたが、残念ながら他の方はランクインしていませんでした。

 

今日、話題になったドラマの多くも論じられているのですが、下記の本をお勧めしたいと思います。

 

平田 由紀江・森 類臣・山中 千『韓国ドラマの想像力―社会学と文化研究からのアプローチ』(人文書院、2024年)。

 

目次を見ていただければわかるように、ヒットしたドラマの背景を解説しながら、現代の韓国社会の現実を読み解いている本です。社会学と文化研究からのアプローチということで、アカデミックな視角をもちながらも、学部生を想定していると思われるので、平易な言葉で書かれていますし、一般書としても十分に面白いと思います。

 

 

まえがき

序章 日本における韓流

Ⅰ 境界を越える想像力

第1章 人工知能の行く末と人間性:『キミはロボット』
第2章 分断の語られ方について:『愛の不時着』『サバイバー 60日間の大統領』
第3章 「食べる事」の快楽とリスク:『酒飲みな都会の女たち』『静かなる海』『キングダム』など

コラム1 ウェブトゥーン原作ドラマの楽しみ方

Ⅱ 格差をめぐる想像力

第4章 教育による階層移動は可能か:『SKY キャッスル 上流階級の妻たち』
第5章 世代があらわすもの:『応答せよ』シリーズ,『シスターズ』 
第6章 韓国社会と学校についての一考察:『ザ・グローリー 輝かしき復讐』

コラム2 格差社会を描いた作品とグローバルな広がり

Ⅲ 権力を問い直す想像力

第7章 権力と社会正義の行使:『補佐官』『補佐官2』
第8章 官僚制組織の理想と現実:『秘密の森 深い闇の向こうに』『秘密の森2』
第9章 軍事文化と逸脱の問題:『D.P. 脱走兵追跡官』『D.P. 2』

コラム3 韓国ドラマに描かれる「財閥」

Ⅳ “つながり”への想像力

第10章 「おじさん」たちのロマン:『マイ・ディア・ミスター 私のおじさん』
第11章 「 母」をめぐる表象:『結婚作詞 離婚作曲』『グリーン・マザーズ・クラブ』『椿の花咲く頃』

コラム4 フェミニズム・リブートと韓国ドラマ

終章 韓国ドラマ制作変遷小史

あとがき

 

正直、『愛の不時着』については、あまりにも自分の思い入れが強いので、ちょっと物足りないというか、政治学者が書いたら異なる分析になるだろうなあ、と思いましたが。というか、自分であまりに色々調べ過ぎたので、知っていることばかりだった、というのもありますし。

 

私としては、特に面白かったのは、『SKYキャッスル』に関するところです。

ちょうど、先日、日本版をやっていたので、韓国版を復習したところだったのですよ。以前もブログに書きましたが、その時は、ひたすら「格差社会」「受験戦争」にだけ注目していました。

今回改めて観ていたら、もっと違う視点が見えてきて。ジェンダー論というか、母親の役割とか女性のキャリアというところがテーマになっていたのだのだなあ、ということに改めて気づかされました。

 

本書だと、第11章の「『母』をめぐる表象」のところに、柳采延『専業主婦という選択ー韓国の高学歴既婚女性と階層』(勁草書房、2021年、241頁)の引用がありますので、以下ちょっと孫引き。

 

「高学歴専業教育マムという新しい規範的ライフスタイルの形成は、2000年代以降、学歴にふさわしい就業機会の少ない高学歴女性の間で、女性の自己実現規範や権利意識が高まる中で生まれた高学歴中間層としての自己主張であ」った。

 

本書の第4章でも述べられているのですが、『SKYキャッスル』のなかの、ピラミッド持ってるチャ教授の妻のスンヘはフランス文学の研究者を目指していたけれど、子供の教育のためにその道を諦めたという設定。そして、エピローグ的に描かれる、最終話で引っ越してくる家族も、母親が医師なのに、子供の受験のために仕事を辞めているんですよね。

しかも、家庭教師コーディネーターのキム先生が、子供のケイの教育に異常に固執するようになったのは、自身が大学院で挫折したか何かで、同級生の女性研究者が教授として成功しているというコンプレックス。

 

ということで、本当にえぐってくるんですね、韓国ドラマって。女性だからという理由で就業機会が少なかっただけが理由でないにせよ、実際には能力があるのに、それを仕事で生かす機会がない女性たちのコンプレックスと有り余るエネルギーが、あの常軌を逸した受験戦争の背後にあるという事実をあぶりだしています。

わたくしも個人的に分かりすぎて怖いです…💦

 

この他にも本書の中では、やはり観たドラマの分析はどれも興味深く、『補佐官』の章では、韓国の国会議員の補佐官の仕組みが詳しく解説されていたり、『D.P.』の章では、モデルになったと考えられる、軍での不祥事(乱射事件やいじめなど)についても述べられています。

 

まだ観ていない『グローリー』『シスターズ』、挫折中の『秘密の森』に改めて切り込まなければ!と思っている次第です。

 

よろしければ是非お手に取ってみたくださいね!