本:掏摸

掏摸
作者:中村文則
発行年月:2009年10月
発売元:河出書房新社
ロベール・ブレッソン監督に「スリ」というフランス映画の名作があり、この小説の資料にもなっている。平凡な若者がスリの魅力に惹かれて、スリの世界にずるずるとのめり込んでいく。映画の主人公のスリという行為は、人生の一時期のブームのような熱であった。主人公は成長し、成長と共に熱は冷める。この小説の主人公の闇はもっと深く、掏摸という行為は人生に絡みついている。主人公はそこから逃げだそうともせず、どんどん深みに落ちていき出口が見えない。見えない未来に落ちるように走っていく主人公は極めて魅力的だ。登場する犯罪は大きいが、主人公の身辺は平凡。主人公はとても身近でリアル。それが犯罪小説特有の世界とは違い日常から逸脱しない。日常の中に起こる心地よい犯罪のスリルに静かに心躍らせながら一気に読み切った。映画「スリ」の主人公は最後、恋する女性に救われる。平凡な日常でドラマはなかなか起こらない。小説「掏摸」の主人公も最後、泥沼を切り抜けようとするが…、彼を救う人は現れたのか…。主人公への思い入れが強くなる作品だけに、主人公のこの先の人生も見てみたい。







