読書「その周囲、五十八センチ」石田 夏穂 | 白玉猫のねむねむ日記

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本日の読書感想文



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​ケチる貴方


石田 夏穂




​作者について 


著者は1991年(平成3年)生まれ。目

現在、32歳の若い作家だ。


東京新聞より


この本には「ケチる貴方」と

短編その周囲、五十八センチ

2作品が収録されている。




タイトルにもなっている長編「ケチる貴方」は、野間文芸新人賞候補になるなど、注目された作品だが、残念ながらわたしには面白くなかった。



( 読者とは残酷なもので、

つまらないと思ったら読むのをやめてしまう。

そういう意味では、

間を飛ばしながらも読ませ続ける、

超長編マンガの持つ魅力は凄い!)




しかし、もう一方の、

短編その周囲、五十八センチ」は

読み始めたら止まらなくなる面白さだった。口笛チュー音譜






では「その周囲、五十八センチ」とは、

どんなストーリーかというと・・・



あらすじ(添付: 脂肪吸引について) 




体型コンプレックスの女性が

「脂肪吸引」の手術を繰り返し・・・





注意⚠️  脂肪吸引とは







文字通り、

血肉を削り、

主人公は痩身と美脚を手に入れる。






いろいろ紆余曲折あり

最終的に主人公は 

「脂肪吸引手術」を、

自己否定のためではなく、

自分の身体を

より良い外見に向上させるためのものアップ

と、いう風にポジティブに捉え直す。




一周回って、自己肯定に至るまでの話だ。







あらすじ補足 


少し、補足しておきたい。




幼い頃から、家庭や学校で、

自分の醜貌を揶揄されてきた主人公。 

ショボーンキョロキョロえーん泣




醜貌を補うかのように勉学に励み、

その甲斐あって東京大学に入学・卒業。


現在は、一流企業に勤めるエリートだが、

脂肪吸引に嵌り、

高収入の大半を手術に費しているせいで、

暮らしに余裕はない。






そんなある日、主人公は

親しい同僚(男)の

「人間は内面が大切」という言葉に、

動揺する。


「脂肪吸引」という、

外見の向上に血道をあげている自分は、

心が狭いのか?心が汚いのか?

と、気になりはじめる。




しかし、その同僚(男)の

派遣社員(太めの中年女性)への

ルッキズムを目撃し、

改めて美醜とは何か?

と、更に、考え込む。







そして、主人公は気がつく。


今まで自分が「脂肪吸引」に費したもの。

「脂肪吸引」で得たもの。





その正の面も負の面も含め、

「脂肪吸引」は、

もはや主人公の人生の中で、

抜き差しならない程、大きく重たいものになっており、

今さら引き返せない・・・と。







だが、それ以上のことは

主人公にもわからない。


美醜について、

脂肪吸引について、

結論が出ないまま日は流れ、

ある晩、主人公は酒場で


「あんた、いい脚してるわねえ♡

すごいあんたに似合っているわ」



と、酔った友人に褒められ、

涙がでるほど深く感動する。

 



主人公は確信する。


外見の向上を求め「脂肪吸引」を繰り返してきた自分の生き方は、

世間的には褒められるものではないかもしれない。


だが、間違ってはいなかった



自分は、自分の体が大好きだから、

より良くなるよう、改造してきたのだ・・・


新解釈に思い至り、深く納得する。




そんな主人公の自己肯定感を顕示するように、この短編小説は『わたしの脚どの、今のご機嫌はいかが。』で、終わる。






グッときたポイント 


この作品を読むまで

わたしは「脂肪吸引」について、ほとんど知らなかった。


小説の中で

脂肪吸引の手術費用は

高額と書いているだけで、

具体的な値段は書かれていない。


いくらぐらいかかるものなのか?

好奇心から調べてみたら・・・



太ももお尻の脂肪吸引の料金

▹施術費用:¥658,900(税込)


お腹・ウエスト腰の脂肪吸引の料金

▹施術費用:¥548,900(税込)

札束札束札束札束札束札束





これを数ヶ月おきに繰り返し、

全身を改造をしてきた主人公。



かかった費用も半端ないが、

術後の痛みも凄まじいものがあるという。

驚き汗





もはや、妄執の人だ。


だが、外見の悪さで、

他者から傷つけられた経験のない者が、

知った気に話す、

「人間は内面が大切」などという、一般論の薄っぺらさと比べ、


妄執の人である主人公が語る、

痩身への思いは、

深さでも、説得力でも、レベルがちがう。




従来のナルシズムとは一線を描す、

主人公の自己肯定に至る道に

わたしは深く感服したのだが、どうだろう?






こんな人におすすめ 

温度差はあれ、

誰にでも、外見の向上を願う気持ちはあると思う。


その願いの背後に、

もし、自分を否定する闇が黒々と広がっているのなら、


この主人公のような解決方法もあって然り。

ルッキズムに悩む人がいたら、ぜひ読んで欲しい。

そして、現代では、こういう解決法もあるということを、知る意味は大きい。





耐え切れず

ある日、思い切って、

後戻り出来ないようなことを仕出かしたら

別の地点に弾き飛ばされ、

結果的に救われていた。


なんて、わたしの年齢になると、

わりとよく聞く話なんだけど・・・






グッときたポイント・追記 




最後に、この短編小説が猛烈に面白いのは、

『今』を切り取っているからではないだろうか?



テレビ等で、『今』を『宗教の時代』と説く人を見かけるが、

わたしは『今』を『身体の時代』だと考えている。


そういう視点から見ても、

石田夏穂の書く小説は、「脂肪吸引」をテーマに据えた、『身体』の小説だ。




まさに、令和の時代に登場し、

令和を生きる主人公だと思う。