お風呂の後、脱衣所で洗濯物を干していると、居間から何か聞こえてきた。

「時間がなかった~~ん」
長男の裏返ったへなへな声。
「時間がないわけないやろー。
 はよ、やれ。」
夫の低くまっすぐな声。
宿題のことだ。
「えええーーーぇ~」


「しちいちがしち、しちにじゅうし、
 あ、そういえば、8のだんのはちろくから
 上は全部おぼえたよ!」
「それより、はよやれ!」
「しちさんにじゅうし」
「24なわけないやろーー!
 まじめにやってないなー!」
「ふええええーーー」


洗濯物の手をとめて見にくると、いつものふにゃふにゃ君がいた。パパがつけているテレビをこたつの横でじーっとみている。


「じゃあ、ママが聞いたるから、
 こっちの静かなとこおいで。」


となりの寝室へ引っぱっていってドアを閉める。

「しちいちがしち、しちにじゅうし、
 ·····しちくろくじゅうさん!
 これでいい?」
「ちょっとまちがえたやん、もういっかい。」

「こんどは?」
「ちょっとつまったから、

 もう一回やっとく?」


「これでオーケー?」
「う~~ん、まあ、いいかな。」


次は8の段。
「はちいちがはち!
 はちにじゅうろく!
 はちさんにじゅういち!」
「あ、まちがえたよ!」


「ウっひょ~~ん·····」


風船のようにしぼんでいく、へなへな君。


九九はつづく·····