去年の大晦日、ロサンゼルスから、サンフェルナンドバレーに向かう丘の中腹にある、リベラルな美術館、Skirball Cultural Center に行ってきた。
今回見たかった展示は、ヨセミテ国立公園など、壮大な自然を撮ることで有名な巨匠、アンゼル・アダムズが、第二次世界大戦中に、マンザナール強制収容所に入れられた日系人とその生活をカメラに収めたもの。
http://www.skirball.org/exhibitions/manzanar-ansel-adams#
1800年代後半から、アメリカ西海岸に移住した日本人は、1941年の真珠湾攻撃のあと、敵国人として見なされ、3日の間に身の回りの荷物を詰めて、強制収容所に行くように命令が下された。
その理由としては、日系人は、海の近くに漁村を作っているので、アメリカ海軍の動きを観察しやすいとか、空港の近くだと空軍の様子を観察して、その状況を日本軍に密告するかもしれないとか言ったこと。日本と戦争しているからといって、日系人みんながスパイであるわけでもないのに。
その頃、発行された雑誌には、中国人(Chinese)と日系人(蔑称のJapと書かれている)の見分け方が載っていて、中国人は背が高くてすらっとしているが、日系人はずんぐりしていて足が短く、ヒゲを生やしている男が多いとある。要するに、これが日系人だから、見つけたら敵国人として扱いましょうということみたい。馬鹿げてる。
アンゼル・アダムズは、知り合いに請われて、マンザナールを訪れ、そこに住む人々の姿を、カメラに収めた。収容所の監督に、撮影の許可はもらっていたものの、収容所を囲むバリケードと、監視塔の撮影は禁止された。
そこに住む人々は、今まで築いてきた財産や土地を奪われ、自由も剥奪されていたけれど、精一杯日々の生活を生き、砂漠の中で、夏の強い暑さや乾き、冬の厳しい寒さに耐え、やせた土地を耕し、盆踊りなどの日本の伝統行事には、着飾って踊ったりして、ささやかな楽しみを見つけながら、辛抱強く生きている。
以前、山崎豊子氏の「二つの祖国」という小説を読んだけれど、その中で語られていたことが、ここで写真となって表現されている。アメリカに住む日本人すべての人に、 この本を読むことをオススメする。今でこそ、ロサンゼルスやサンフランシスコは日本人にとって住みよい街だけれども、それは、私たちの先祖が苦しい差別を乗り越えてきたからこそ、成り立っているということを、忘れてはいけない。
そして、これは決して、過去の歴史として終わったものではなく、いま現在も、ムスリムの人たちが苦しんでいる状況と何ら変わりのないものだと感じる。中東系の容貌であったり、イスラム教の女性が頭にヒジャブという布を纏っているというだけで、差別的な行為を受けている。イスラム教でも、過激派はほんの一部で、ほかのイスラム教徒は、危険人物ではなく、彼ら自身も被害者だというのに。70年前、日系人みんなが敵であったわけではなく、戦争によって、傷ついた人もたくさんいたというのに。この現状は、70年以上前と、どう違うと言うのだろう?過去から学ばないと、人はまた同じ過ちを繰り返す。そういう意味で、この展示は、多くの人が見るべきだと思う。
戦後、大自然を舞台に壮大な景色の写真を撮ってきた巨匠が、戦時中に日系人の強制収容所で写真を撮り、それが、1944年に “Born Free and Equal” という本として出版され、当時物議を醸したことは、あまり知られていない。アダムズのその視点には、敵味方の区別が感じられず、いち写真家として、そこにいる人々の生活を、淡々と(と私には思える)カメラに収めている。
そこにいる人々は、きっと当時の他のアメリカ人が楽しんだように、野球をしたり、畑を耕したり、友達や家族と笑ったりと、制約された中での、日常を生きている。アメリカにとっては、敵国の日本人も、彼らと同じように生活している。戦時には、みんな忘れているけれど、敵国の人々も、みんな人間で、それぞれのやり方で、生活を営み、喜びや悲しみ、痛みを感じながら生きている。それを、想像するのを忘れさせてしまうのが、戦争なんじゃないかな。アダムズは、それを写真で撮って発表することで、人々に、敵国人もあなたと変わらない人間なんだよということを、いま一度、想像してほしかったんじゃないかな。
英語で、put yourself in their shoes という表現があって、直訳すると「他の人のくつを履いてみなさい」。つまり、自分が他人の立場(靴)に立って(履いて)、考えてみるということ。他人の生きてきた道を想像して、それがもし自分だったらと思うと、そんな容易に、差別とかいじめとか、できないんじゃないかな。そういう意味でも、想像力って大事。想像力を鍛えるために、本を読み、映画を見、写真やアートに触れる。これって、つい後回しにされがちだけど、実は、大事なことなんだなあと改めて思う。
いろんなことを考えさせられる展示。近くに行かれるときは、寄ってみてはいかがでしょう?