「フリーファイヤー」。マーティンスコセッシ総指揮のイギリス映画。簡単なあらすじを書くと、闇組織から銃を仕入れようとするIRAのメンバーと闇組織が、間に仲介人を入れて廃工場に集まり大量の銃の密売取引きをしようとする。ヒリヒリとした緊張感の中、取引きはうまくいきそうだったが、思わぬアクシデントにより事態は急変。結局激しい銃撃戦になってしまう。どちらのグループにも属さない謎の狙撃手も表れ事態は更に混乱へ…みたいな感じ。

名優達の演技はさすが。ジョンデンバーの曲もいい味を出していた。イギリス映画らしく、登場人物は導入部からずっと、とにかく嫌味を言ってお互いを侮辱し合う。これよこれイギリスはこれよ!って感じで期待も高まる。

映画は冒頭からタランティーノ的な下品なセリフの投げ合いをし、タランティーノ的なワンシチュエーション劇の開始。しかしここでイギリスっぽいシニカルなリアリズムが発揮されだす。敢えて(?)だと思われるが、映画的なテンポ作りを無視した銃撃戦。まず、撃っても撃っても全然当たらない。当っても脚や肩などで、撃たれた奴は痛がって地面を這いつくばりながらも死ぬこともなく、お互いボロボロになりながら打ち合い続ける。そりゃそうだ。複数の相手の急所を次々と一発で打ち抜き即死させるなんて、まるで映画みたいな事があるはずないじゃないか!
そして、あっと驚くような意表を突く展開もない。そりゃそうだ、そんな映画みたいなことばっかり、実際は起きるはずないじゃん。銃撃戦自体が非日常なんだから、銃撃戦は単なる構成要素で他のドラマチックな展開の間に銃撃戦が挟まれるような、そんな、普通の映画みたいなことばっかりあるはずないじゃん!
…こう書くと中ダレが伝統芸能の日本映画みたいな構成になってしまいそうだが、オーバーな泣き叫びセリフ回しやボソボソクールみたいな腐れ演技のシーンは無く、イギリス的なシニカルジョークな雰囲気が終始流れているので救われている。それと、中ダレしそうなギリギリのタイミングで何らかの小さな展開があり、ギリギリ観てられるようにしてある。しかしこの小さな展開も、あっと驚くような新展開ではないし深い意味もない。エピソードとして有っても無くてもいいようなものでしかなく、あくまでも死にかけながら死なない奴らが這いずり回りながら撃ち合い、弾を外し合うってメインテーマ(?)が消えることなく続いていく。

観た後になんの感慨も残らないし、ドラマチックなどんでん返しの連続でハラハラすることもないし、派手なアクションでスッキリもしないし、1人も善人がなくて感情移入も無いし、人生の悲壮も深みも感じないし、気持ちよく笑えるわけでもないし、恋愛要素やサスペンス要素も皆無。
あえて、自分の欲だけで動く自己中なクズ達のダラダラした銃撃戦と罵り合いだけで構成されたこの映画。たまにはそういう映画を楽しむ心の余裕があってもいいのかな〜と思わせる、珍しい作品でした。