父親の実家がこれまた超田舎の超古いボロボロの家だった。
床や壁の色は、たばこのヤニや油のベトベトで黒光りしていた。
靴下なしでは入れず、また、この靴下は二度と履きたくないくらい汚れるのだった。
トイレは案の定外にあって、もちろんぼっとん便所。
鍵もない木のドアを必死に押さえて用を足す。
私なんかは小さい子供だったからそんなこと何とも思っていなかったが、母はきっと、父の実家ではトイレに行かなかったに違いない。
カチカチなる柱時計の音が響き、
何とも言えない古い家の匂い。
あれは表現できない。
鼻の奥の脳みそに染み付いている感じがする。
離れに祖父の部屋があった。
祖父はシシシシシシと笑う。
殆ど声を聴いたことが無い。
というか、会話をしても聞き取れない。
ただその存在感がすごく、
いつも曼陀羅の絵を描いていた。
私たちのことを好いていてくれてるのか、よくわからないが、私はそばで絵を描いている祖父を見ているのが好きだった。
決して長い時間いたことはない。
500円のおこづかいをもらって、そそくさ帰る。
食事を一緒にしたこともない。
だけど、祖父の横にはひばちがあって、
白い息がでるほど寒いけど、心は温かだった記憶。
写真も残っていない。
あの頃携帯があればよかったのに。
記憶の底にしずんで、ほとんど浮かんでこないが、
時々、
この秋から冬に変わろうとする季節の空気が、
この記憶を引っ張り出す。
今、
会って話してみたい。
おじいちゃんと面と向かって呼んだこともない、その愛しい対象に。
