DENON(デンオン、現在はデノンと読む)は、ご存知、日本が世界に誇る老舗オデオメーカーの一つだ。

その始まりは、1939年(昭和14年)に設立された「日本電氣音響株式會社」まで遡る。その後、1960年代、日本コロムビアとの合併を経て、2001年には米国ファンドのリップルウッド・ホールディングスに買収され、現在では、日本マランツとともに、リップルウッドが筆頭株主を務めるディーアンドエムホールディングスの傘下の一ブランドとして存続している。

悲しいかな、多くの国内オデオメーカーが外資の食い物にされる中、老舗のDENONといえども例外ではなかったわけだ。多くのオデオファイルにとって親しみのある「デンオン」読みから「デノン」読みへと変わったのも、米国をはじめとする海外では「デノン」読みが一般的であったためだ。外資に買収されるのとあわせて、「デンオン」から「デノン」へと呼称が変わったのも、大変悲しいことである。

、、、とデンオン(敢えてそう書かせていただく)の歴史はこれくらいにしておこう(笑)。

それだけ、日本のオデオファイルには浸透しているブランドにもかかわらず、何故か、拙宅にデンオンのオデオ機器が1台も無い。腐るほど(本当に腐ってるかも・・・(爆))、オデオ機器はあるのに不思議である。まぁ、唯一あるのはオデオ機器とまでは呼べない、カートリッジのDL-103LCⅡとDL-301Ⅱぐらいのものだ。

かつては、プリアンプPRA-2000やアナログプレーヤーのDP-100を使ったこともある。直近では、デンオンのプレステージシリーズ・Sシリーズの一体型CDプレーヤー「DCD-S1」を約5年間、愛用した経験がある。

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このDCD-S1、まさにCDトランスポート+おまけDACのような構成のプレーヤーで、アナログアウト(RCA&XLR)からの音質は、良く言えば真面目で落ち着きのある音、悪く言えば、“華”がなくツマラナイ音であった。

しかしながら、デジタルアウトの音質(特にBNCとAES/EBU)は抜群に良かった。拙宅ではマークレビンソンNO.30.6Lとの相性が良く、ワイヤーワールドに●●万で特注したAES/EBUのクロスケーブル(NO.30.6Lは2番HOT、DCD-S1は3番HOT)をあてがうほどであった。

実は、このDCD-S1を売却して招き入れたのが、現有のCDトランスポート、エソテリックP-70なのだ。P-70を導入したのが2006年なので、少なくと7年近くは拙宅システムからデンオン製品が遠ざかっていることになる。

まぁ、そんな訳でずいぶん聴いていなかったデンオン製品、特にデジタル機器の音をしばらくぶりに聴きたくなったのだ。そんな思いが頭の片隅にありつつ、オクを徘徊していて見つけたのが、この製品、1995年に発売されたDAコンバーターのDA-500Gだ。なにしろ18年前のモデルである。製品の位置づけとしては、先回取り上げた「温故知新」系に属する懐かしのDAコンバーターと言えよう(笑)

多彩なCDプレーヤーをリリースしているデンオンだが、DAコンバーターは、このDA-500G(ブラックモデルのDA-500もある)と、DCD-S1同様、Sシリーズの「DA-S1」(1993年発売)の2機種のみである。

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巨大な筐体が一般的だった当時の国産DAコンバーターにしては珍しく薄型軽量(W470mm×H75mm×D290mm、重量3.8kg)なところが良い。これくらい薄型のほうがシャンパンゴールドが嫌味にならない。バカでかいシャンパンゴールドは、アキュのように余程精緻に作り込まない限り、安っぽさを感じてしまう。

いや、決して、このDA-500Gが高級な作りである、という訳ではないが、遠めで見る限り安っぽさはあまり感じない。鏡面仕上げが施された左右のサイドウッドが時代を感じさせるが(笑)

このDAコンバーターの売りは、なんといっても、デンオンご自慢の16bitデータ20bitクオリティで再現する独自のアナログ波形再現技術ALPHAプロセッサーを搭載してることだろう。

ALPHAプロセッサー(Adaptive Line Pattern Harmonized Algorithm)は、デジタルデータ(16Bit)をベースにして、本来のアナログ波形に近づくように、デジタルデータの補完(擬似的20Bitへの変換)を行う回路である。これは、手法こそ異なれ、ビクターの「K2・プロセッシング」方式と同様の考え方である。小生の記憶が正しければ、前述したDA-S1に始めて搭載されたと記憶している。

また、D/A変換部には2DAC・20bitラムダSLCを採用、DACにはバーブラウン社製のアドバンスト・サイン・マグニチュード方式DAC「PCM1702」を2基搭載している。DCD-S1がPCM1702をデュアル使いで4基搭載していたのと比べると、値段相応の簡略化がされているようだ。

入力系は大変豊富で、光(TOS)が3系統、同軸(RCA)が2系統ある。デジタル出力2系統(光:1系統/同軸:1系統)あることから、デジタルセレクターや光⇔同軸変換のセレクター的な役割もこなせる便利モノだ。

ロック可能なサンプリング周波数は、32kHz/44.1kHz/48kHzと、これも開発年度を鑑みれば時代相応であろう。面白いのはインバート(位相反転)スイッチがあることだ。いかなる組み合わせを想定してのインバートスイッチなのであろうか? 少々、疑問が残るところだ。

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さて、早速、聴いてみよう。

出来るだけ良質のデジタル信号を送り込んでやるため、送り出しには、エソテリックP-70(トランスポート)+G-0d(マスタークロックジェネレーター)とする。プリアンプにはクレルPAM-3、パワーアンプはクレルKMA-100MkⅡをチョイスした。

出てきた音は、至って真っ当な音(笑)DA-500Gよりは明らかに格上のオデオ機器とのカップリングであったが、破綻したり、妙に浮いてしまったりすることなく、前述の試聴システムの中でバランスよく鳴ってくれた。

サウンドバランスは、高域端と低域端の情報を整理し、両端をなだらかにロールオフさせたカマボコ型であり、トラディッショナルなデンオンサウンドを踏襲したものと言えよう。そう、カートリッジのベストセラー「DENON DL-103」の音傾向に何となく似ているバランスだ。

中域帯も特定の帯域を強調したりすること無くフラットな展開で、耳馴染みが良い。現代レベルから見ると、高域の伸びと粒立ち、中低域のエネルギー感が不足しがちだが、全体のバランスが良いので、音楽を聴いていて不満に感じることは無い。

女性ヴォーカル、ピアノトリオ、ラッパにヴァイオリンソロ、シンフォニーと、いろいろなジャンルを聴いてみたが、どれも一様に真面目でスムーズ、なめらかな鳴り方をする。耳障りな音を出さないのはALPHAプロセッサーの効果だろうか。

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『COVER 70’s』では、しばじゅんとの若干距離は遠くなるが、それなりのしっとりとした瑞々しさ感じさせるヴォーカルだ。ただし、小生が求める、女性ヴォーカルの色気や艶かしさ、肉感的な豊かさを求めるのはムリ。そのような音の“色合い”や“風合い”は、更に上のグレードで語られるべき要素であろう。

面白かったのは、P-70からの「16Bit/44.1kHz」の信号をDDコンバーターのdCSパーセルで、DA-500Gが受けられる最上位フォーマット「20Bit/48kHz」までハイビット&ハイサンプリングして聴いたサウンドだ。

僅かに明るさが増すが、高域の粒立ちが良くなり、倍音のヌケも増して音場がグンと広がる。音楽の躍動感も向上する。これはパーセルの効力なのか、それともDA-500Gの潜在能力なのか分からないが、なかなか聴き応えのあるサウンドへと変貌を遂げた。

いずれにしても、このDA-500G、なかなかの実力者とみた。最新デジタル機器のスペックと比較してみれば、お話にならないほどの低スペックであるが、そういった数値的な優劣と音質が意外と正比例しないのもオデオの面白さの一つである。

まず、オデオ誌ではやらないだろうが、ワンチップの安価な最新32Bit/192kHz対応DACと、丹精込めて綿密にチューニングされた16Bit/44.1kHzオンリーの旧式DACをブラインドで聴き比べたら・・・・・これは、面白い結果が出るかもしれない(笑)そんな、妄想を抱かせるような、DA-500Gのサウンド体験であった。