大人の絵本 第2話 蟻川栗男博士~「イカ様とタイガースファンのネコちゃん」 | マインド・イノベーション(HERMESブランドを中心にご紹介します)

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大人の絵本

イカ様とタイガースファンのネコちゃん

 

第2話 蟻川栗男博士

 

 2012年8月広島県K市で市内の女子高生(18歳)が山林に死体を遺棄されるという残忍な事件が起きた。

 男女8人で女子高生に乱暴して殺し、死体を山中に遺棄したのだ。

 最初は殺された女子高生の同級生が犯行を自供したが、実は恋愛関係のトラブルから女子高生を懲らしめてやろうと集団で呼び出し暴行しているうちに、エスカレートして殺害してしまったのだった。

 死体を遺棄した後、車に戻るところを「蟻川栗男」に見られてしまった。

 この中に、山本慶二がいたのだ。山本慶二は直接犯行に参加していないでそばで見ていただけだったが、補導され少年院に送られた。

 ニュースで女子高生の殺害は報道されたが、蟻川栗男の件は一切公表されなかった。

警察の取り調べでも蟻川自体の名前はおろか、少年たちも一切の記憶が無かったようだ。

 山本は、図体はでかく強面だが内心は臆病でケンカも弱い。この事件の日も途中で気を失うほどだった。

 

 蟻川栗男は32歳。蟻川が小学生の頃父親が病死、その後病弱な母親に育てられたが、蟻川が高校を卒業した年に長年の苦労がたたり病死してしまった。

 元来化学好きの少年だった蟻川は、奨学金をもらい大学に行った。そこでの「生命に関する研究」が認められ、秋山教授の推薦によりインドに行くことになった。

 2012年の8月、蟻川は一時帰国していた。東京でシンポジウムがあったからだ。

生まれ故郷の広島に戻り、何をしていたのか今は不明だ。

 ただ言えるのは、山本慶二ら男女8人と事件時に遭遇していたにもかかわらず、8人の口から蟻川栗男のことは一切出てこなかった。

 

 「それでは、これより新生命体に関するシンポジウムを開催いたします・・・・。」

司会の男の明るい声が会場に響いた。

 1時間ほど過ぎ、シンポジウムの壇上に蟻川栗男が立っていた。

 「みなさん、お待たせいたしました。今、世界中で話題の新生命体に関する研究で注目を集めている蟻川博士を紹介いたします。蟻川博士は・・・・・」

 司会者が蟻川のプロフィールを紹介すると、スポットライトが蟻川を照らし出した。日本人離れした彫りの深い顔とハンサムな顔立ち。まるで映画スターのようだ。

 「みなさんこんにちは、蟻川栗男です。私の研究している。新生命体ですが、この研究をすることにより、人類に明るい光が見えてきました。・・・・」

 蟻川のプレゼンテーションは約1時間に及んだ。会場からは惜しみない拍手がなかなか鳴り止まなかった。