作者の経歴は物語とは関係ない。
作品と読者との相性は経歴には関係ないからだ。
けれども、やっぱり気になってしまう。
なんとも華麗なる経歴の作者。アメリカ生まれ東大法学部卒、弁護士勤務からの作家。
いたって普通(それすらも今の日本では大変恵まれていることなのだが)の経歴である私は、その経歴に気後れしてしまう。
一緒にするのも恐れ多いが、法律、というただそこだけの共通点に興味が湧く。
本書では、五つの先祖をめぐる依頼が主人公を待ち受ける。
主人公は邑楽風子(おうら ふうこ)。
彼女は捨て子だった。
一風変わった「先祖探偵」という仕事は、自分の母のことを知りたくて始めた稼業である。
さらりと書かれているが、住民票や戸籍を取るのは、本当に大変なのだ。
物語では依頼者からの委任があるから良いものの、以前の仕事を思い出すと、弁護士資格のない身では利害関係があっても非常に難しい。
弁護士や捜査機関ならまだしも、そうでなければ簡単に照会も取得もできないのだ。
当たり前だけれど。
物語はどれも面白いが、幽霊戸籍や無戸籍の物語が個人的には特に面白かった。
そこにいることになっている、という戸籍や住民票は思っているより多い。
戸籍は読み解くのに非常に苦労する複雑な状態になっていることも多い。
物語はそれぞれ謎も綺麗に解決するし、日本各地を巡る旅に食事まで出てくるところもいい。
仕事と勉強も好きだが、寝るのと食べるのも私は大好きだ。
風子の気持ちも整理され、お涙頂戴でない、ありのままを認められたことも感慨深い。
終わりで語られる、
「人は孤独なのが当たり前だと思っていた」
「だが孤独であることはどだい無理なのかもしれない。人の縁の中でしか人は生まれない(後略)」305頁
という風子の心の変わり方は、鬱陶しくも、温かく、縛りつけながら助けになる、そんな人と人との関わりを的確に表している。