硬派の文士

こんなとき、あんな本

 

一燈を提げた男たち  小島 直記

  

 序に代えてから、

氏は硬派の文士である。

人間の生き方、社会の在り方に対する情熱と信念が筆を

取らせる。 日本における近代精神の権化である福沢諭吉に

始まり、小林一三や松永安左エ門といった企業家精神を

体現した人々や石橋湛山に見られる真の言論人の生涯を

描き切った。 氏ほど戦後の日本で自由主義の正統を

説き続けた言論人を知らないと粕谷一希は書く。

 

 この本では著者の評価する先人たちの生き方や行動が、

自伝、伝記、随筆を引用し語られている。

 

 尾崎咢堂

「人生の本舞台は、常に未来にあり」との文字が、逗子の

咢堂の記念碑に彫られているという。

昭和12年79歳の咢堂が決死の覚悟で軍備批判演説を

第70議会で行った。その後も同様の活動を続け収監され、

後に無罪となる。

戦後も昭和28年総選挙落選まで政治家を続け、

昭和29年永眠(96歳)

 

 また、初めて知る人物にも多々巡り合える、例えば。

内藤濯(あろう)仏文学者 94歳天寿全う

星の王子さまの訳者

 

 氏は、サン・テグジェベリの星の王子さまの献辞の

『おとなはだれもはじめは子供だった。しかし、そのことを

忘れずにいる大人はいくらもいない』

というのにぶつかって、私はまったく身のすくむ思いがした

という。

 

 とした氏の言葉を入口にして、内藤濯とその周辺の好ましき

人物たちが語られる。

 
 清廉潔白を貫いた人たちが描かれている。

 

 本書は、久々の読み返しだが「逆境を愛する男たち」、

「回り道を選んだ男たち」など、ある時期のなまずの心を

燃やす燃料になった。