弱い放射能がガンを引き起こす
こんなときあんな本

いのちと放射能 柳澤 桂子

 柳澤さんは、チェルノブイリの原発事故に驚いてこの本を書かれ
ました。

 冒頭に以下、科学者としての自責の念を述べられています。
「私はふと、私がいちばん悪かったのではないかと気がつき、
りつ然としました。
私は放射能が人体にどのような影響をおよぼすかをよく知って
いました。
放射能廃棄物の捨て場が問題になっていることも知っていました。
けれども、原子力発電のおそろしさについては私はあまりにも
無知でした。」

 こんな真摯な思いを込めて、やさしいことばで書かれています。
いま、文庫本で平積みされています。

 読んでおくべき本です。
以下、抜粋引用。

 ・人間は放射能に手を出してはいけません

 原子力を使うということは、放射線を出す廃棄物を増やし続ける
ということです。
廃棄物に含まれる半減期の長い元素はどう処理してよいのかわからない
のが現状です。

 ・少量の放射線でも危険

 微量の放射線による被害を防ぐため、職業上、放射線を浴びる
可能性のある人は、5年間で100ミリシーベルト以下、かつ、
単年に50ミリシーベルト以上は浴びないというのが原則です。
しかし、これは「それだけの放射線を浴びても安全ですよ」という
値ではなく、「それくらいまでならしかたがないでしょう」
という値です。

 私たちのまわりにある土や岩石に含まれている天然の放射性物質や
地球の外からくる宇宙線のために、私たちは絶えず微量の放射線を
浴びています。

 その量は場所によっても違いますが、1年間に0.5ミリシーベルト
くらいです。このような微量の放射線でも人間の一部のガンの原因に
なっていると考えられています。

 ・弱い放射能がガンを引き起こす

 弱い放射能が細胞内の情報テープ(DNA)を傷つけます。
人間の大人の身体は、60億個の細胞からできていますが、この細胞は
すべて1個の受精卵が分裂を繰り返してできたものです。
 大人になると大部分の細胞は分裂をやめます。
けれども、大人の身体の中でも盛んに増えている細胞がいく種類か
あります。骨髄で血液や細胞になるべき細胞は盛んに分裂しています。
胃や腸の内壁の細胞、精子をつくる細胞、皮膚細胞なども分裂します。

 一部のがん細胞の中に細胞をガン化する情報が情報テープの中に
書き込まれていることがわかっています。
人間の情報テープは1細胞あたり30億個の文字でできています。
そしてその中のたった1文字が変化しただけで細胞がガン化する場合が
あります。

 一発の放射線によって細胞がガン化すると、とめどなくガン細胞が
増えはじめるのですが、身体の中には免疫機能があって、ガン細胞の
ような異常なものをやっつける働きをします。
健康な人では免疫機能がしっかり体を守っています。

 おそらく、身体の中ではガン細胞と免疫機能との間で戦いが繰り広げられ、
ガン細胞が増えたり、その一部が殺されたりということが繰り返されて、
最終的にガン細胞のかたまりができあがるのでしょう。
ですから、ひとつのガン細胞が生まれてから、実際にかたまりとしての
ガンが発見されるまでには数年から数十年かかります。

 細胞分裂が盛んな細胞ほど放射線に弱いということになります。
大人より子供、子供より胎児のほうが放射線の影響は受けやすくなります。