鋳掛け屋の天秤棒は出しゃばり

 江戸地口に鋳掛け屋の天秤というのがある。
意味は出過ぎるということ。
鋳掛け屋の天秤棒は七尺五寸、普通のものは五尺二寸、長いことによる。

 なぜ、鋳掛け屋の天秤棒は長いのか。
これは江戸の名物、火事に関わりがある。
幾度かの大火に見舞われた江戸では、軒下七尺五寸以内での火の使用を
禁じ、火の取り扱いに注意を払ったことによる。
鋳掛け屋は火を使う。
天秤棒の長さは、軒下から七尺五寸離れ仕事をさせるためのメジャーでも
あったのだ。

 ちなみに、時代劇に登場する健気な子供の担ぐ天秤棒の長さは、三尺
七寸である。女性用のものは、四尺五寸が標準であったという。

 鋳掛け屋は、鍋釜に空いた穴を修理する。空き地で持ち寄られた鍋釜を、
ふいごで金属を溶かし修理しているのを見たような淡い記憶があるが、
夢かうつつか幻か、定かではない。

 地口とは、駄洒落や韻を踏んだことば遊びのことをいう。
何か用か九日十日とか驚き桃の木山椒の木、ブリキに狸に蓄音機などである。

 江戸地口の鋳掛け屋の天秤のことは、「言伝て鍋」 池辺 良、天秤棒の
長さは、「江戸売り声百景」 宮田 章司にあった。

 ふとした疑問が、読書によって解決される快感は、なんとも愉快である。