琵琶湖のおもいで12
どじょうはうなぎの餌

 琵琶湖の西岸に育った者にとって、どじょうは食べる対象の魚
ではなかった。腎臓を患ったりした人が滋養をつけるために食べて
いたかも知れないが、まず食べない。

 坂東にきて初めての年末の飲み会に柳川鍋を注文したものがいた。
どじょう料理に初対面である。
丸ごとのどじょうを口に入れる勇気はなく、牛蒡と卵をつっついて
終わった。

 鰻を釣るには、生きたどじょうを餌に延縄をする。
どじょうが元気に動いていないと鰻が喰う前にザリガニの餌になる。
夕刻に「しま」のここぞと思う場所に仕掛け、早朝に上げにいく
夏休みだけの釣りであった。
釣り針が伸びたり、どじょうだけ取られものに混じり、糸に絡み
ついている鰻がいるという釣りであった。
釣った鰻は父が関西流蒲焼にして琵琶湖の鰻は旨いと喰っていた。

 私が坂東に住むようになり江戸前の蒲焼を喰い、これは旨いと
思った。その旨を店の人に告げると、「うちの鰻は毎日仕入れ、
注文受けてから捌いているから美味しいのよ」とのキリッとした
答え。
「まいどおおきに、安うて旨いのが云々、、、」とのやり取りに
慣れた関西者には、かば焼きのみならず坂東との文化の違いを味う
日々があった。

 ところで、時が経るのはえらいもの、開きの柳川や細いどじょうの
から揚げに箸をつける自分がいる。