琵琶湖のおもいで9
はすの輝き

 琵琶湖畔に住む少年にとって「はす」には、トンボで言えば
やんまのような、ちょっと憧れに似たような気持ちを抱く。
はすは、魚偏に時と書き、体長20~30cmの輝く魚である。

 盛夏の琵琶湖畔、「まき」と呼ばれる鮎が群れ動く塊が、
そこここに現れる。突如としてこのまきが大きく形を変えるとき、
はすが鮎を捕食しようとしているときである。
この時期、はすのオスは光輝く色に彩られる。
翠、藍、朱、銀が鰓から胸、尾びれを彩る。

 はすは、淡白で上品な味がする。
七輪で白焼きした熱々のはすに醤油をザブッとかけ、淡白で上品な
身を味わう。淡水魚に共通する二股に分かれた小骨を除くのも
もどかしく醤油が冷える前に、口に入れていた。

 釣れる魚ではなく、少年達では捕らえることはできない。
このはすを取るには、巾6~7m、高さ1m強の透明の糸で作られた
投げ網を用いる。
目視で、はすの動きを捉え、網を投げ、追い込むのである。
網の方への追い込むのが難しい大人の漁で、凄いなと思って見ていた。
見ている者を意識してか、
 「いかいやつに逃げられたわ、あかなんだなぁ」
と悔しそうなおっさんのつぶやきを幾度か聞いた。