芭蕉も鮒鮨を喰ったかな
琵琶湖の魚

 鮒鮨は、子持ちの煮ごろ鮒を飯と塩で漬ける発酵鮨-「なれ鮨」-である。
その年の気候や微妙な塩加減で発酵具合が違い味も微妙に変化するそうで、
「今年のは、うまいこと漬かったわ」と親戚の人が晴れの日に自家製を持って
きてくれる。

 とろけたように醗酵した飯を除き、薄い切り身にする。切り身となった鮒鮨には、
鮮やかな朱色の卵が包まれている。骨まで柔らかく醗酵食独特の味わいがする。
雄でも旨いというけれど、やっぱり卵を孕んだ雌のほうが旨い。

「鮒鮨や 彦根の城に 雲かかる」という蕪村の句がある。
ここからは妄想だけれど、芭蕉もきっと、鮒鮨を近江の門弟と喰っただろう。
浜大津か粟津辺りの浜に面した料理屋の二階座敷で。ふと北を望むと彦根辺りに、
入道雲が立っていたなんてね。

「芭蕉 経帷子」 別所 真紀子には、芭蕉の終焉時のようすや近江の俳諧衆
との親密な関係ぶりが描かれています。